わしの詫び状。守れなかった猫様へ


毎年この時期になると去年一年の写真集を作るんですよ。それを嫁の誕生日プレゼントにするというのが結婚後のお約束となっていた。すでに本棚には5冊のアルバムが並んでいる。

こちらは2019年版の表紙。

が、今年(2020年版)はパスかなぁ。ご賢察の通りお出かけしてないからネタがない。そうだな。パスッ…と思ったんですが、意外や意外、そこそこのネタはあるんですよ。そもそもそのほぼすべてが無駄撃ちとはいえ去年1年だけで1万枚以上の写真を撮ってますから。それらがバックアップされたGoogle Photoもそりゃ有料化されるわな…と勝手に納得。

そんなこんなで写真をまとめてたら思い出したことがありまして。それが今日のお話。一年前に書こうとして書けなかった話。ある猫への謝罪文、詫び状です。

去年の初夏の写真。特に首のあたりの毛並みがおかしいのがわかるかと(後述)。

うちの庭によく姿を見せている猫がいた。けっこうイケメンで何よりも人たらしで性格がいい。しょっちゅううちにやってくるものだから、そのうちおやつを与えるようになり、それが呼び水になったのかますますうちにやってくるようになり…と、いつの間にやらうちの第三の猫になっていた。彼の名はFindus(フィンドス)。現在6歳の姪っ子が絵本からつけた名前

この名前は私たちが勝手に名付けたもので、彼の正しい名前はCharlie(チャーリー)。100メートルくらい離れたところにあるご近所さんの飼い猫。

ところがある日、ご近所さん宅に犬が新しい家族としてやってきて、これが彼にとっての運命の分かれ目になった。飼い主としては新しくやってきた犬のほうがかわいい、ついでになぜか彼と犬が仲良くならない、そんな理由で彼はだんだん疎まれる存在になり、うちにも帰らなくなり、帰っても可愛がられるわけでもなく…と平たく言えば放置子(猫)なったわけ。うちによくやってくるようになった頃と重なる。

それでも数週間くらい姿を見せないことがあったりとかしていたので、たぶん彼の家にいるんだろうなくらいに思っていたのだが、うちに来る頻度が数日に1回になり、毎日になり、そのうち日中義父や義母が庭仕事をしているうちはずっと入り浸るようになり…と上に書いたとおりうちの第三の猫に。なにせ、朝玄関のドアを開けたらすでに待機しているような子だったから。

玄関を開けると待機していたFindus登場。

それでも義母はうちに入れることはしなかった。よその子だし、階上の私達の家にはキキとミントがすでにいる。まあ当然。

窓の向こうで待機。たったガラス窓一枚ながら、そこには明確な「内と外」があった。

ところが、彼の健康状態がみるみる悪くなっていったのだ。なにやら皮膚病を患っているらしく、首のあたりとかにいつも引っかき傷があり血が滲んでいるような状態になった。なのだが、彼の飼い主は彼を動物病院に連れて行くようなこともせず放置。正直痛々しくて見ていられない状態になってきた。これで飼い主が面倒を見るようになればよかったのだが、実際はその真逆の方向に話が進んだ。

かくして嫁を含めた家人に相談したのだが、そもそもどこの家の猫かははっきりしているもののその家とのおつきあいがない。いきなり家を訪問して「お宅の猫の世話をちゃんとしてください」などと言うわけにもいかない。もっと言い訳すれば、コロナ禍が始まった頃で、他所様の家のドアを気軽にピンポンできるような状態じゃなくなった…というのもあった。

どうしたもんかと思っているうちにも彼の傷は悪化するばかりで、見るに見かねて嫁と一緒にアニマルレスキューに電話をした。「こういうわけで近所に放置された猫がいるのですがなんとかなりませんか」と。その答えは

「野良猫なら対応できますが、飼い主がいるなら無理です」

理屈としては納得できるけど、もどかしさだけ募る。勝手にうちの子にしたら何かしらの法に触れるだろうし。そもそもうちには先住猫が二匹もいる。身勝手な内と外の論理だけど、うちにいる猫のほうが大事だし。

ここで一つの悲劇が起こった。

とある朝、車庫のシャッターを開けようとしていた義母のところにFindusが登場。ところが義母は彼に気づかずにシャッターを開けようとする。踏まれそうになった彼は反射的に義母のかかとを引っかいた。

私はその場にいたわけじゃなく、義母だって彼の存在に気がついていたわけじゃないから上のわずか数秒間の描写はすべて想像なんだけど当たらずとも遠からずだと思う。悪いことは重なるもので、この日に限って義母はサンダル履き(運転に支障のないやつです)。素足だったので彼の爪はかかとからふくらはぎをおもいっきり傷つけてしまった。実際医者にかかるほどだった。これで風向きが変わってしまった。義父が宣言したのだ。

「うちで中途半端に面倒を見ているのがかえって良くない。今後Findusは出入り禁止。餌やりも禁止」

ある意味で正しい。中途半端なことをするのが一番良くないというのは反論の余地のない正論。有言実行の義父は彼がやってきたら追い出すようになった。なんだけど、半端者の私は彼を見捨てることはできなかった。こっそり餌をあげたりしたものの、義父がつれなくするものだから、彼がやってくる頻度はめっきり減った。

そんなある日。写真のスタンプによると2020年6月1日。仕事が休みで天気が良く義父も不在だったこの日、私は庭にガーデンチェアーを出して、日陰で本を読んでいた。そしたら彼がやってきた。そして、私の足元のガーデンチェアーの端にちょこんと座った。そしてそのまま私がトイレを我慢できなくなって立ち上がるまで数時間そこから動かなかった。きっと人恋しかったんだろうなとか勝手に邪推。

これが私の撮った彼の最後の写真。この数日後に、下手な小説のオチのようだけど彼は車に轢かれてしまったらしい。

こうして1年後に振り返ってみると、ご近所さんに喧嘩を売る勢いでなんとかしようとすべきだったんじゃないかと思う。そう思うには相応の理由がある。

猫にGPSをつけてみた 夜の森 半径二キロの大冒険(勝手に宣伝ですが、この本ホントに面白いですよ)という本を上梓された高橋のらさんをつぶやいたー上でフォローしているのだが、氏が庭に来て自分のうちの猫とケンカをしていた野良猫を保護して、こともあろうに自分のうちの猫にしてしまった…というお話を現在進行系で氏のつぶやいたー上で拝見しているから。氏のブログにも逐一お話がまとめられている。

私に言わせると、自分のうちの猫と大げんかした外猫を自分の家に入れるなどハナから無理な話だと思うけど、氏はその無理なことを時間をかけて見事に成し遂げようとしている。話の次元は違うかもだけど、私にももう少しできたことがあったんじゃないか…そんなふうに今更反省している。まさに後悔「役に」立たずですが。Findus、ホントにごめんな。