【平成最後の日本帰省8】別府のゲストハウスと温泉と夕飯と…


舞台は佐伯から臼杵を経由しまして別府です。

別府に来たことのあるドイツ人の友人(嫁じゃないです)の弁。

「別府に着くなりずっこけた」

…何かと聞くと、別府駅に電車で到着した時の駅のアナウンス。「べっぷー。べっぷー」がツボに入ったらしいのだ。言われてみると、バ行とパ行の組み合わせってかなり変かもね。

そんな別府は私があらためて指摘するまでもなくおんせん県大分の看板都市です。大分の県庁所在地がどこか知らなくても別府は知っている…という人すらいそう(正解は素直に大分市です)。別府八湯と言ってそりゃあもう草津なんかとは比較にならないほどの豊富な温泉があるんです。当然文字通りピンからキリまで豊富な宿泊施設がありまして。

そりゃピンの方に目を向ければ一泊10万円超の高級旅館なんかもあるし、そりゃもう果てしない。なんですが、私が別府で夜遊びするときは4000円くらいで泊まれる駅近くのビジネスホテルが基本なんです。今回もまあ、どこかAZホテルなり亀の井ホテルなりそのへんに泊まろうとしたわけ。

ところが、11月の三連休の中日ということもあってかまあ、1ヶ月半ほど前の時点でどこもかしこも満室(他の理由があるのだがそれは後述)。さもなければ、通常の2-3倍の室料をぼったくろうとしている。なんじゃこりゃ。そんな中で目をつけたがここ。

鉄輪温泉の中で威容を誇るヤソグ…もといヤングの文字。それは…

公式サイトよりスクショ。平成が終わろうとしているのに昭和の匂いしかしないヤングセンター。もうしびれるくらいかっこいい。

ヤングセンター。

ヤングセンターの説明をする前に、まずはヤングセンターのある鉄輪温泉の説明をしないと。別府温泉ってのはかなり広いくくりでのお話で、別府市内は別府八湯と言われる主に8つのエリアがあるのです。その中でも鉄輪温泉って個人的にはいちばん「正しい(昭和の)温泉街」という趣。なんちゅうの、飲み屋さん街とかが一通り揃っている。ただし、山の中腹にあるので別府駅からはバスなどの利用になります。なので、駅近くを捨てて鉄輪温泉に泊まるのもありかなと思ったわけ。

ところで、さっきから鉄輪を連発してますが…読めます?行ったことがある人とか地元の人じゃないと読めないですよね。「かんなわ」です。ちなみに大分市には菡萏という地名があるけど…これなんかかんたんに読めないよね。というか、書けないよね。

件のヤングセンター、大分県民にはとってはおなじみです。今はどうか定かではないが、私が大分に住んでいた頃(30年近くも昔)は夕方のニュースの時間にここのCMがスギノイパレスと同じくらいしょっちゅう流れていた。ただ、どう見ても名前にふさわしくなく、ジジババのたまり場になっているような印象を受け、こんなとこ絶対行きたくない!と思っていた。そりゃそうだ。中学生が大衆演劇を見たい!とか渋すぎる。

それから30年。別府の宿を探しつつ、ふと気になって調べてみると、まだあるじゃないですか。ヤングセンター。ウェブサイトを見る限り、完全に昭和で時計の針が止まってしまっている。宿泊料は5000円。これは赤塚さんのツボでもないだろうか。というか、これは一周回って逆に面白そうだ。というわけで、予約しようとした。…が、どこをどう見てもネット予約のページがないのだ。いや、トップページにちゃんと「ご予約」のリンクがあるよ。だけど、その先あるのは予約フォームではなく電話番号

うーん。ヤングセンターの主要顧客と思われる昭和中期までに生まれ、ひところナウでヤングだった人たちとネット予約には親和性がないのかなあ…などと考えつつ、高萩さんに電話予約をお願いした。別に国際電話で予約しても良かったんだけど、まあ、予約時にケータイ番号とか聞かれると面倒なのでだったら高萩さんにお願いしたほうが正解かなと。

高萩さん:「電話したよ。そしたらすっごく感じ悪いオッサンが電話に出て、『11月の予約は11月近くになってから電話してください』と怒られた」

そう。ヤングセンターは予約方法まで昭和で時計の針が止まっていた。電話の向こうでノートに名前と人数を書く姿が目に浮かぶ。ある意味ウェブサイトを持っていることは何かの奇跡だったのかもしれない。ともあれ、11月まで待って改めて電話しても良かったんだけど、高萩さんがそのあまりの対応の悪さに「もう電話なんかせん!」とおかんむり。まずその可能性はなさそうだけど万が一にも11月まで待って「満室です」とか言われたら詰むわ。これはどげんかせんといかん(注:大分弁ではなく宮崎弁です)といろいろ探したんです。すると、旅まくらというゲストハウスを発見。

(追記2020年11月)ヤングセンターはコロナ禍真っ只中の2020年3月末をもって閉館されました。ついに行かないままでした。あー、あの電話のおいちゃん(大分方言)の対応が良ければ閉館前にヤングセンターを体験できたのにと残念に思います。下に出てくる旅まくらさんに出会えたことももちろんありがたかったのですが、こちらは現在ももちろん営業されてますし。

某予約サイトより。見た瞬間に、おっ?と思った。

おお、昭和の佇まい。

場所は駅から徒歩10分以上かかりそうであまりいいとは言えない。だけどこの際文句は言うまい。宿泊費も安いし、予約っ。

話をヤングセンターに一瞬だけ戻すと機会があればぜひ行きたいと思ってます。鉄輪温泉には昔は秘宝館というとんでもないものもあったらしいのですが2011年に閉館。こちらも昭和の薫りがぷんぷんしてたはずなので一度行っておけばよかったと思ってます。

…というのが話の前提だったんです。ああ、長かった。

17:30 別府市旅まくら

ホントはドケチ道に徹して臼杵から一般道で大分市内を経由して別府まで来ようと思っていたのですが、日豊線の駅巡りに時間をかけすぎました。ちょっと時間が押していたので高速道路で別府へ。1時間ほどで別府に到着。まずはお宿へ。

ちょっと翌日に撮影した写真とかが混ざるんですが、まずはお宿の解説を。

どう見ても普通の民家ですが、これがゲストハウス「旅まくら」です。

一言でいえば、「おばあちゃんちに泊まった」という感じです。

あくまで、おばあちゃんち…なんです。おばあちゃんちに「自分の部屋の中に風呂とトイレがないと嫌」とか「防音がしっかりしてないと嫌」とか言わないですよね。そんなことを要求する可愛げのない孫はおばあちゃんちなどに泊まらずに、駅前のホテルに泊まりなさい…そんな話。

ここのオーナーはおばあちゃんではなく、私と年齢がほぼ同じのお兄さん(注:「おいちゃん」ではない)。まあ、そうじゃなきゃこの仕事は務まらないだろうけど、人当たりのいい感じのいいお兄さん。私たちが到着するなり館内の説明から近所のおすすめスポットまで説明してくださる。

館内はオーナーのお部屋を除き3部屋。二階に6畳間が二間あり、階下はオーナーのお部屋(ここまで中は確認してません)と水回りと私たちの泊まった部屋。この私たちの泊まった部屋がたぶんこの施設内で一番豪華でして、床の間付きの6畳と4畳半の続きの二間。なので、例えば、グループで泊まって男女別…とかいうことも可能。まあ、昭和時代の細切れになった間取りそのものですね。

翌朝撮影。立派なテーブルもあるので宴会も可能。というか、Facebookなどを拝見すると、国際的な宴会が開催されてます。

しつこいけどあくまでおばあちゃんち…ですから、風呂もトイレも共同で1箇所のみです。ただ、これは全く問題にならなかった。だって風呂になんて入りませんでしたから。あとで書きますが、1メートルも穴を掘れば温泉の出てくる別府です(これが広告ならJARO案件な表現)。何が悲しくて温泉じゃない内風呂に入らなきゃいけないんだ…という話。

この宿の難をあげるとすると、その場所。いや、駅から遠いとかいう話じゃなくて、車の入れないような路地にあるという問題。夜、水戸さんも赤塚さんも見事この路地を見逃して通り過ぎてた。

このゲストハウス、かなりの割合で外国人観光客が泊まっていくらしい。この日も二階には台湾からのお客さんが来られている…とか聞いた気がする。ただ、出歩いていたりだったので出会わなかったけどね。

ここにクルマで来る人はあまり多くない気がするけど、一台分近隣に駐車場は確保されてます。ありがたく利用させていただきました。それから、暖房は完備され暖かく、お布団もキレイで気持ちよく眠ることができました。これは明らかにダークホース的あたり宿です。

というわけで、チェックインも済んだら…腹減った。よし、ご飯だっ。

18:00 和ごころ

旅まくらのオーナーにオススメのお店を数軒教えてもらい、市中心部へ向かいてくてく出かける。途中で道がわからなくなり(←お前地元民だろうが…)犬のお散歩中のお姉さんに聞いたら、そのお店はホントおすすめですよー」といいつつお店の前まで案内してくださる。いやー、大分の人って優しい人ばっかりだわ。到着したお店は

「予約がない?申し訳ないですが、今日はいっぱいでして」

別のおすすめのお店もやはりいっぱい。

聞けばこの日は市内のビーコンプラザでミスチルのコンサートが行われたらしい。それで水を飲み下すがごとく納得した。なんでヒコーキが3連休を計算に入れても恐ろしく混んでいたこと、別府の宿が軒並み満室か、そうでなければ超強気な値段を設定していたこと。なるほど、そういうオチだったか。なんとなくのイメージだけどミスチルってコアなファンが多いんじゃないか…という気がする。

余談:ビーコンプラザの展望台には訪問済みです。かなり股間に来る展望台です。過去日記はこちらから

これは困った。もしかして夕食難民になるのか…最悪ファミレスかと困っていると、赤塚さんが目の前にあった小料理屋さんっぽいところにずかずか入っていく。数秒後…

「今日は大将が一人で回してるから時間がかかるかも知れないけど、それでもよかったら空いてるって」

ちょっと待って。プレイバック。赤塚さん、これだけどこもかしこも混んでいる中で空いている店って大丈夫なの?だいたいレビューも何も確認せずに入っちゃうってどうなのよ…と完全にネットに脳ミソを汚染されたことを考えるが、考えてみると、この状態でああだこうだ言ってる余裕はないよな。こりゃここで妥協するか。

場所が決まったので合流する約束になっていた水戸さんに連絡。

水戸さん、実は昨日のうちに別府に到着して、これまたとんでもなさそうな宿(最高の褒め言葉)を予約していたのだ。件の三連休なのに一泊3000円を切るという良心価格…というよりはホントに大丈夫なの?という値段。高萩さんは知らんが、赤塚さん・水戸さんと私の宿の好みは似ている気がする。

水戸さんは宿の好みは似ていても、宗太郎駅になど興味はなかったらしく、件の宿に一人で一泊して観光してこの日に合流する約束だった…のだが、突然入った仕事のせいで予約していた飛行機をキャンセルして、一日遅れで参加することになったらしい。なんというか、私たちの年齢になると、仕事でもなんでもそこそこ中堅どころになり責任が発生するみたいね。私以外は。…あれ、これ、航空券は買い直しだったのかな。怖くて聞けてないわ。

ちょっと遅れ気味に水戸さん到着。聞けばキャンセルした宿に宿代を払いに行ったらしい。確かに当日キャンセルは一泊分の宿泊料金を申し受けます…というところがほとんどだろうけど、クレジットカード番号を渡してなければ逃げ切ることも可能だと思う(注:断じてそんなことはやったことないですよ)。そうせずにわざわざお金を払いに行くあたり、水戸さんはかなりの正直者だと思う。

美味しいヱビスが飲めるお店はいいお店です(当社基準による)。この基準によれば、この店は間違いなくいいお店です。

水戸さんもようやく参加して乾杯し直し。なお、翌日に用事のある高萩さんは泊まらずに佐伯方面にある自宅に車で戻るらしいのでアルコールには手をつけず。もっともそうでなくても下戸らしいんだけどね。

というわけで、ようやく和ごころの料理の紹介ができそうです。

このお店。カウンターに5-6席、それから4人がけのテーブルが2つある座敷があるだけのこじんまりとした店。これくらいのお店、大好き。対極にあるあの体育館のようなショッピングセンターにあるフードコートとか大嫌いなんですよ。

お通しは一人一つ好きなものを選んでください式。

大分名物とり天。鳥の天ぷら…なんですが、あまりに名物なので水戸さんがこのあと何度も繰り返し注文することになります。あとで専門店にも行ったのですが、水戸さんいわくここのが一番美味しかったと。つまり、この店、当たりなんですよ。

あれ、今気がついたんだけど…メニューによれば…

たぶん…というか間違いなく仕入れなどでメニューがどんどん変わる感じなんでしょうね。

アジ寿司3貫600円(右上)なのに4貫ある。4人だからひとつオマケしてくれたのかしら。だとすると、何も言わずにそんなことをしてくれる粋な大将…ということになる。ちなみに「大将」じゃなくて「板長」みたいですが。

土曜の夜だというのにお店を一人で切り盛りしている、私たちよりも若そうな長髪の板長は明らかに忙しそうだった。そりゃそうだ。一人で調理から接客からやってるんだから。挙句の果てには途中で近所…というか斜向かいのスーパーに何かが足りなくなったらしく買い出しに行っちゃったし。高い質の料理が出てきたとこから判断するに、まさか肉や魚を買ったとは思えないので、片栗粉あたりを切らしたのかなと勝手に想像。

個人的にクリーンヒットだったのはこちら、和牛の天ぷら。もともと柔らかくて美味しそうな牛肉を…天ぷらにしちゃいますかね。

カウンター席にはお二人の女性がいて予約されていたと思われるコース料理を召し上がってました。大将…もとい板長から料理の説明を直接受けていたりしていい感じでした。ここにまたお邪魔することがあったらカウンター席に座りたいなと思いました。

ここで朝6時前から14時間近く引き回しの刑にあっていた高萩さんを解放。和ごころからの帰りに、こんなステキな温泉を見つけまして。うん。これじゃよくわからないだろうから、Street Viewのリンクを貼っとく。

既出の通り、天下の別府で宿の内風呂に入るなど愚の骨頂なので、これはここに来ようと、一度旅まくらに戻り着替えを用意して永石温泉へ。

22:00 永石温泉

また難読地名きました。「ながいし」だと思うでしょ。実は私もそう思ってた。でも違うのだ。これで「なげし」。永石通りにある公共温泉です。

到着後言われたこと。「あと30分で閉めます」

まあ、30分あればなんとかなるでしょと、入浴料を払う。税込み100円。ワンコイン。安いっ。別府にはお姉さんが貸切風呂で背中を流してくれる特殊なお風呂などもあるようですが、数万円払ってもそこは温泉じゃないし(たぶん…知らんけど)、こちらは源泉かけ流しでこのお値段。すごいぞ別府。

当然女性の方の扉を開けるわけには行かないので男湯の扉を開けると…

写真は退館時に撮影。

うわー。きったねー(再び最高の褒め言葉です)。もう昭和の頃からの積年の汚れがこびりついてごまかしようがない状態になってます(歓喜)。上の写真には写り込んでませんが、私たちが突撃したときには数人の汚えおっさんのケツまでありましてね(自分のことを棚に上げてまあ…)。

これが扉を開けた瞬間なんです。つまりですよ。扉を開けたときにその前を誰かが通過してたりしたら、中は丸見え(いちおうのれんはあるけどさ)。脱衣場は左と右にあるちょっとしたスペースだけ。このように半地下になっていることがこの温泉の特徴と言えるかも。まあ、これだけ見え過ぎちゃって困るわ状態だと、温泉から脱衣場まで目が届くわけで、盗難なんかもしづらい…かもしれない。

ところで、もう一つ気になることがありませんか?

そう、洗い場が…ない。

幸い洗面器はあります。つまり、体を洗いたかったら、湯船のお湯を洗面器でくんで洗え…ってことです。別府の100円の公衆浴場では基本です。

これ、拒否権を発動する人は一定数いると思う。例えばうちの弟。よくもまあ…ってくらい性格・好きな食べ物・ものの考え方その他が私と正反対(つまりまともだという言い方もできる)。その弟いわく、「山手線の座席は汚いから座れない」だそうです。おんせん県大分で生まれ育った弟に温泉を語らせると

「温泉?ジジイの煮汁じゃねえか」

と言って憚りません。そんなうちの弟がここの扉を開けたら入浴料を払っていてもたぶん扉をそっと閉じて立ち去ります。いや実際、知らぬがホトケ、私たちが訪問する直前までレジオネラ属のせいで営業自粛してたらしい。まあ、だとしたら清掃などが行き届いてたはずだからかえって安全だったような気もするけどね。

ともあれ、私に言わせると、この昭和の頃も同じ佇まいであったに違いないこの温泉はいいなと思うわけです。さっきの写真をセピア色なんかにしてみると、ほら「昭和の写真集」の1ページのような趣になります。こんな温泉が別府市内にはいたるところにあるんですよ。奥深いですよ。別府は。

泉質は無色透明でにごり湯だと効果を感じる私に言わせるとちょっと物足りない、温度は私が入れる温度内で最高に熱い。

もし、こんな洗い場もないような貧民街のような温泉は嫌だ!などと失礼なことをおっしゃるブルジョワジーな皆様には、近所には湯都ピア浜脇という施設もありまして、こちらは510円も払えばスーパー銭湯のような(でもかけ流しの天然温泉の)お風呂が楽しめます。

22:45 旅まくら

かくして、宿に戻ってきました。ここで水戸さんがなにやら悪魔のようなものを取り出した。今回残念ながら不参加となった草野さんからの「お土産」らしい。

旅まくらの床の間と上喜元 純米吟醸 Napa Valley

これはとんでもない悪魔の商品です。山形は酒田にある有名所らしい上喜元という蔵元が作っている「上喜元 純米吟醸 Napa Valley」という日本酒です。はい。誰がどう見てもワインにしか見えませんが日本酒です。なんでも、ワイン樽で寝かせて作る日本酒だとか。

うん。これはワインに近い…。なんというか、白ワインと日本酒のいいとこ取りをしたような…そんなお酒。おそろしく旨い。一人で1本いけちゃうんじゃないかってくらい旨い。自信を持って言うけど、これをヨーロッパに持ってきたら絶対に売れる。…なんだけど、日本国内ですらあまり流通してないらしいし無理ですな。

こうして、他のかたのご迷惑にならないように静かに酒盛りを始めたのですが…朝4時から起きていた私は…お察しください。

翌日もおんせん県大分の本領発揮。温泉、行きますよ。