【イノトランス2018-1】知らぬということは恐ろしく、恥ずかしい


イノトランスに行ってきました。…と言ってもほとんどの方は「何それ」ですよね。Wikipediaを丸写ししていいなら…

 

イノトランス(InnoTrans)とは、世界最大の国際鉄道技術見本市の名称である。2年に1回、偶数の年の9月に、ドイツ・ベルリンで開催される。

 

…だそうです。

 

このイベントに参加するのが夢だった…というそちら方面の業界人の友人が私費と有給を投じて日本からやってくるというので、その人の地元のコーディネーターのような顔をして参加してきました。

 

最初に断っておきたいのですが、私は鉄ヲタ、いわゆる鉄道オタクではございません。誰がなんと言おうと。なので、物見遊山気分で参加してきたのですが、いや、そんな気持ちで参加してごめんなさい。とんでもなく勉強になり楽しかったです。

 

基本的にですね、2018年のイノトランスは9月の18日から21日までの4日間開催され、22と23日は一部が一般にも公開された感じです。私は、20日と21日の2日参加し、ついでに22日の一般公開にも参加してきてしまいました。どんなイベントだったか忘れないためにも、できるだけ詳しく書いていきたいと思ってます。

 

19日(水)の夕方、仕事が終わるなりに車でベルリンへ。ほぼ300キロの距離(東京から豊橋の距離)を3時間で走り抜ける。今回は嫁の大親友のおうちに図々しくも三晩も泊めていただく算段。…それだけでも私の感覚からすると「ちょっと図々しい」のだが、現実はもっと図々しい。この週は偶然にも家族で里帰りの予定となっており、嫁の大親友からはとんでもない提案が。

 

「じゃあ、お隣さんに鍵を預けておくからテキトーにやってて。あ、水槽の魚にエサはあげてね」

 

ないないない。私の常識ではありえない。良く言えば信用されているんだろうけど、それって逆に言えばプレッシャーにもなるぞ。いや、日本でも民泊とかあるらしいからこれでいいのか。どのへんの感覚が正しいのかわからないけど、こうして私たちはベルリンでの宿を確保。しかもタダで。

 

さて、本題に入る前に、この日本の友人たちについて説明をしなくては。AさんBさんでもいいのだが、なんか違和感があるので、仮名を草野さんと水戸さんとする。深い意味はない。テキトーに常磐線の駅名を使っただけ。

 

草野さんは私がダブリンで知り合った別の友人の友人。そして、水戸さんは草野さんの友人。今回はじめてお会いした。友達の友達は皆友達理論という笑っていいとも式の友人。おふたりは日本からわざわざこのイノトランスのためにやってくるらしい。

 

日本的でありがち…と言っていいのか、草野さんは火曜日に通常勤務ののち空港へやってきて深夜便でヨーロッパ某所を経由して水曜日の昼前にベルリン入り。土曜日の午後には日本への帰路に就くらしい。…聞いただけで疲れる。実質滞在時間は72時間を切るのでは。

 

私は勝手に草野さんと水戸さんは一緒にやってくると思い込んでいた。ところが、水戸さんは羽田をほぼ同時刻に出発するものの、経由地などの違いでほぼ半日遅れでベルリンにやってくるらしい。なんだかばたばたしそうな予感がする。

 

翌日木曜日。朝の10時頃に待ち合わせ…のつもりが、時差ボケ全開で朝の5時には起きてしまった草水コンビと友人宅のIKEAのマットレスがいまいち身体に合わずによく眠れなかった嫁と私の利害が変に一致して朝の8時すぎにはベルリン中央駅に集合。もちろんタダで泊めていただいておいてマットレスに文句を垂れるつもりはありません。

 

草水コンビに聞く。朝ごはんはいかがなさいますか。

 

水戸:「(ベルリンといえば)カリーヴルストが食べたいっ」

 

…そう来ますか。というわけで、駅にほど近いカリーヴルスト屋へ。中央駅のタクシー待機場脇にある朝の6時から開いているカリーヴルスト屋。鉄道高架下の観光客には気づかれないような場所にあり、かつ、お隣は中央駅の客待ちのタクシー待機場なので、おそらくタクシーの運転手さん向けのファーストフード店の扱いなのだろう。

 

 

まあ、なんというか、「こんなもんでしょ」という感じ。もっともこのB級グルメに「ほっぺたが落ちるくらい美味しい」ってありえない気がするからこれでいいのだろう。水戸さんは時差ボケ+ホリデーなので朝からスーパービールクズ化している。…いや、私は流石に朝の9時にはビールは飲めない。嫁が見てるし。

 

イノトランスなどに微塵の興味もない嫁を放流して、S-Bahnで会場のベルリンメッセへ。一昨年亡くなった友人がこの近くに住んでいて何度かこの駅の近くにやってきたことがあるけどメッセに行くのは初めて。

 

 

それにしても、一般開放されていないにもかかわらず多くの人がメッセ会場に吸い込まれていきます。私たちも行きましょう。

 

草野さんは前日水曜日にすでに会場入りして一通り見学しているので文字通り一日の長があり、私は「ついていきます」モード発動。草野さんは正面の建物ではなく、右手の建物へと進む。入場券の確認の後中に入ると、そこに人だかりのできているブースがあった。

 

 

JR東日本

 

折しも一日4度ほど行われるデモンストレーションをやっているようで、中央にある鉄道シュミレーターを使って、踏切で非常ボタンが押され列車が緊急停止、そこからの回復を実演しているらしい。その様子は高い位置にあるモニターからよく見て取れる。

 

 

本物っぽい運転士さんと車掌さん、さらに運転司令室と思われる場所で働く人たちがが英語で状況説明。そのへんで話している人の話を信じれば、どうも「本物っぽい」んじゃなく、本物のJR東日本の運転士さんや運行司令さんが英語で台本を覚えて実演していたらしい。もしかしたら英語の堪能な人を選んできたのかもしれないけど、まさかドイツまでくんだりまで行って実務の実演をさせられるとは思ってなかったろうなあ。

 

そりゃ台本通りだからそうなんだろうけど、ものの数分で踏切での安全確認が終わり運行再開。残念ながら私はその筋の人じゃないのでこの回復がすごいものなのか理解できなかったけど…きっとその筋の人が見たらすごいものだったのだろう。

 

ほっほーと思ってみていたのだが、ふと気がつくと水戸さんがいない。どこに行ったのかなと思っていると、どうも私がデモンストレーションに見とれていたほんの数分の間に近隣のブースを回っていろんなグッツを集めまくってきたらしい。すげーな、この行動力。

 

後日、撤収作業直前にこっそり撮影。ふだんはもっと混んでました。左側は、系列の総合車両製作所さんの展示です。

 

このあと、一周りしてこのJR東日本のブースに戻ってきたらちょうど人が引けていたので係の方と雑談をする機会を得る。そのうち、草野さんが運転席に座る。

 

ダァシエリイェス!

 

このシュミレーターのすごいところは、一人では動かせないのだ。というのも、運転席の後ろには数メートル離れた場所に車掌室が別にあり、車掌がドアーを閉めてはじめて運転ができる。…ずいぶん本格的。

 

それもそのはず。いや、知らないということは恐ろしい。このシュミレーター、あとで知ったのだが、本当にJR東日本で運転士さんなどの養成に使われている音楽館製のシュミレーターらしいのだ。こんなもんに触ることのできる僥倖を得ることはもう二度とないだろうな。

 

というわけで、草野さんが運転席に座ったので、急遽車掌役を買って出た私。まずは駅に到着という設定らしいのでドアーを開けようとするのだが…開かない。あの車掌室にあるドアー開バーを押し上げれば開くと思ったのだが…あれってひねらないといけないのね。そんなことすら知らない私…って一般ピーポーはそんなこと知らんわな。で、ドアーを閉めて出発の合図ブザーを送る。もうすでに楽しいぞ。

 

車掌室の窓。よく見ると上に駅のカメラまで設置されている。すごすぎる。

 

このシュミレーターがとにかくすごい。運行状況に応じて信号現示なども変化するし、車掌室には窓から見た風景になるディスプレイがつき、さらには駅についたら床面もディスプレイになっており、停止位置を確認できる。(11両編成のこの電車、正しい停車位置なら11のタイルが足元に来る)

 

 

調子こいてこののち私も係の方の助けを借りながらひと駅分運転させていただく。冷や汗をかきつつ駅に到着し、その後雑談をしていたら、この音楽館の社長さん登場。草野さんが嬉々として社長さんと話をしている。さらにはこの社長さんが解説を兼ねてひと駅分の実演をしてくださった。

 

ホントに知らないということは恐ろしく、かつ、恥ずかしい。そもそも音楽館という会社は鉄道シュミレーターの制作の大手の会社で、件の社長さんはカシオペアの元キーボードの向谷実さんらしい。…どうもその筋の人には神様のような人らしい。そんな人と何も知らずに雑談をしていた私…。向谷実さん、気さくな話やすいお方でした。なお、向谷さんが私たちへの説明に集中しすぎてうまく停止位置で電車を止めることができなかったことは胸に秘めておくべきことなのだろう。

 

【追記:2018年10月1日】

週刊東洋経済に、このJR東日本のブースの記事が出ています。なるほど、まともな目線で見たらこんな記事になるんですね。この記事を読むと私は一体何を見てたんだろ…ってくらい見落としているものがたくさんあります。