ニーダーザクセン州最高峰ヴルムベルク(Wurmberg)登頂記


イースターの4連休の初日。引きこもりの私は「どこかに行きたい病」を突然発症。とはいえ、イースターなので店だの美術館だの文明のもとにあるようなものは軒並みおよこい(大分弁=お休み)。そこで私は思いついた。

そうだ ハルツ国立公園 行こう

一人で盛り上がる私をよそに嫁はつれない。「行きたくない」

その気持ちはわかるんだ。なにせ、ハルツ国立公園の特に標高の高いところは見るも無惨なことになっているのよ。ネタバレ的だけど、先に山の様子をご覧ください。

見ての通り、森が枯れ、山肌がむき出しになり、私のような森林や自然に何の知識を持たないアホタレな私の目にもよろしくない状況というのが見て取れる。

なんでこうなったかというと、地球温暖化の影響が疑われる少雨化・干魃、さらには嵐で弱った森に定期的に起こるキクイムシの発生が人工的に植樹されたトウヒ(エゾマツの一種らしい=誰もまた髪の話などしていない)の森を襲ったと。

もうちょっと詳しく書くとね、このトウヒってのががどうもみそで、成長は早いわ、材木としての質も高いわで林業関係者にかなり重宝され、競って植えられたらしい。具体的にはなんとハルツ地方の森の半分!どこぞの国が一つ覚えに杉ばかりを植えたことを彷彿とさせますな。

問題の発生は2003年と2006年の干ばつ。なにせトウヒは寒さや雨には強いものの、乾燥にはめっぽう弱い。干魃で弱っていたところに2007年に嵐が襲い多くのトウヒが枯れて(あるいは倒れて)しまった。

と、そんな森が弱りきったところに上に書いた通りキクイムシが襲ったと。通常なら健康なトウヒならキクイムシなど撃退しちゃうけど上に書いた通り干魃だ嵐だですっかり弱りきったところにいわばとどめを刺すようにやってきたキクイムシのせいでもうトウヒの森はすっかり荒れ果ててしまいましたとさ。

以上、こちらのページ(ドイツ語)の劣化コピーでお届けしました。開くと例のキクイムシの写真が見られます。

ここからのくだりの出典は嫁父で「出典を明示せよ」と言われたら弱いんだけど、とりあえず「地元の古老」枠でご登場願う。いわく、なんでも第二次大戦後イギリスなどがハルツの木を根こそぎ持っていってしまったそうな。ほんでなんか植えなきゃとなって、すぐに育つトウヒに白羽の矢が立ったと。

ごめん。これがトウヒの木である100%の自信はないので、こんな感じで木が倒れるという参考写真ということで。木の根っこが深いところまで達してない。

このトウヒの問題は、根っこが垂直方向に深く根付くんじゃなく、水平方向に伸びるんだろうな。なので、嵐や干魃に弱いと。強風が吹いたら倒れるし、ちょっと雨が降らなかったら地面の深いところから水が吸えないから枯れちゃうと。この二段落は特に話半分に聞いてね。

そんな壮大なハルツの森のお話から矮小な我が家の食卓に話を戻すと、嫁がハルツに行きたくないというのはとっても理解できるんだ。なんだけどさ、私にとってはうちから小一時間の距離で到達できるちょうどいい車を運転できる距離で、しかもなだらかながらもいちおう山だから運転してても楽しいし、そう、ドライブがてらに行くには最高の場所なんですよ。「お前の車の排気ガスでさらに森を枯らしてるんだろ」と言われれば返す言葉もございませんが、とにかく私の中では決めた。いいもんね。行くもんね。一人でも。ぶーん。

正直言ってお一人様にはなんの抵抗もない。そりゃ夫婦仲良く森を歩くってのも悪くないけど、一人のほうが気楽よ。うん。行き先だって自分で決められるし、経路もわざと遠回りしたって問題ないし。そうだ。どこに行こう…と考えること数分。

ブラウンラーゲに決めたっ。

ここ、基本的にはスキーリゾートの町という理解であってます。ここからヴルムベルク(Wurmberg)山頂までリフトも出ているらしいし。ん?リフト、いくらするんだ?調べてみた。

往復€19(2800円)

いやいやいやいや、上りだけ楽させてもらえれば下りは歩きますから片道でいいですよ…と思うのだがそれでも€12。高いぞ。

ここで私のドケチ心…もとい質実剛健な志に火がついた。そうだよ。一人なんだからリフトで楽しようとか考えなくてもいいんだよ。歩けばよろしい。そういう思いでGoogle Mapを見ると

む?山の中腹に有料駐車場がある。これだっ(きらーん)。

というわけで行き先を突然変更。山の中腹の駐車場(Hexenritt=直訳すると「魔女乗り場」というすごい地名)へ。

例のハルツ観光ベルト地帯にあるバートハルツブルグから国道4号線(日光街道ではない)より山に入ります。上り坂は片側2車線なのでストレスなく通行できる…と言いたいのですが、ここが結構な急坂なのよ。わずか98馬力の非力なそらまめ号(日産ノート)では低いギアを使ってエンジンを唸らせないと登れない。リッター275円のガソリンを盛大に燃やし、森に排気ガスを撒き散らしながら急な坂を登る。

タイムスタンプを見ていただければ分かる通り、ほんの数分山を登ったらこうなっちゃうのよ。木が枯れてなくなっているか、あるいは立ち枯れている。どうみてもよろしくない状況。

嫁がこんなところを歩きたくないというのは心情として理解する。これはひどい。

さっきからの道が上りから下りに変わったところにあるこちらがブラウンラーゲの中心部。スキーシーズンにはさぞかし賑わうんだろう(シーズン中に訪問したことがない)。ドイツ北部って、ほかに山らしいところがないから、スキーと言えばハルツになるらしい。西日本における大山みたいなもんかも。でも私はここに車を停めずにさらに進むのです。

村から離れてさらに私道を進むこと数分。着いたぞ。どでかい駐車場に。左手に見えているのが頂上。もうすぐの場所じゃん。

ご賢察のとおり、ここ、スキーシーズンには車であふれかえる日帰りスキー客が使う駐車場らしい。で、4月の今はすでにオフシーズンだから、ほとんど空と。ここを地図上で見つけた俺様賢いわ。

こちらは疑問の余地なくスキーコースでして、私が登り始めた坂は初心者コースに指定されているらしい。ちなみに写り込んでいるリフトはスキーシーズン限定で現在は稼働していない。

歩き始めて気がついたが、山から降りている人はいるけど登っている人はほとんどいない。そう、賢き文明人は上りだけゴンドラを使っているのだ。後で気がついたけどさらに多くの人は上りも下りも文明の利器を利用していた。ゴンドラ料金片道€12(あるいは往復€19)をケチるとはいやはやせこい。

ちなみにこの山はヴルムベルク(Wurmberg)と呼ばれていてこのあたりで二番目に高い山。私の住むニーダーザクセン州に限って言えば一番高い山。標高は971メートル。…たいしたことないな。

じゃあ一番はどこなのよというとブロッケンブロッケン現象とかいう言葉もあるやつね。こちらがお隣で1142メートルの高さ。莫迦にしない。これでもドイツ北部では最高峰なんだから。ちなみにザクセン=アンハルト州(旧東ドイツ)に山頂は帰属するので「ニーダーザクセン州の最高峰」にはならないわけだ。

ブロッケンにはSLで登ることができるんだけど、運賃はなんと片道€35、往復€53。円安の今日日、片道で5000円超え。こんなお金持ちの乗り物に言うまでもなく私は乗ったことはないです。何が言いたいかって、ハルツ国立公園の最高峰も二番峰もお金さえ出せば何の苦労もなく登れるということです。

話をヴルムベルクに戻します。例のゴンドラの谷の出発点(ブラウンラーゲのまちなか)の標高は海抜565メートル。山頂駅は962メートル。ゴンドラの途中に中間駅があり、ここの標高が727メートル。標高差ほぼ400メートル…それを言っちゃあおしまいだけど、徒歩でも登れる。で、私が停めた駐車場は731メートル。そう。中間駅の標高まで労なく車で登ってこられたと。

真っ直ぐ登ると流石にきついのでのんびり回り込むように登っていきます。なにせ冬はスキーコース。道はいくつもあります。

遠くから見たときスキーの上級者コースかと思ったけど違うね、これ、ジャンプ台だ。脇に階段がありますが、だるそうなので横の道に迂回します。

スキーをする人ならわかる。ここ、ゴンドラ降りたのち勢いをつけて降りる坂よね。

こうしてほぼ360度回り込むような感じでゴンドラの山頂駅に到着。駐車場から所要30分ちょい(これでよくも「登頂記」とか表題に書けるもんだ)。「山頂」には人がわんさかいるわ。ブルジョワジーどもは€19払って額に汗一つかくことなくここまで登ってきてそしてまたゴンドラで麓まで戻るんだな。

山の稜線に見えるのがブロッケン。この写真を撮っているときもSLの走行音が彼方から聞こえてきてました。それはそうと、山がほとんど枯れてしまっているのが見て取れるでしょうか。さっきも書いたとおり、山の半分がトウヒの植樹林だったのにそれが軒並み枯れてしまったというんだからこうなる。

さて、山頂には莫迦と煙様御用達の展望台があります。莫迦に該当する私は当然登ろうと。有料。€5なり。入口のおじさんに言われたこと。

「今すべり台はご利用いただけません」

私は反射的に「じゃあまた今度にします」と言って外に出てしまった。で、数秒後に、いや、すべり台とかどうでも良かったんじゃない?と今さら気がついたがだからといって「気が変わりました」と戻るのも気恥ずかしいのでそのまま。

それでも数メートル低い場所とはいえ、パノラマな風景を見ることはできた。トウヒの森が枯れてしまったハルツの山のパノラマをご覧ください(写真は左右にぐりぐりできます…環境に依存しますけど)。

休憩しているときに気がついた。ゴンドラが運行してない。なにか不具合が発生したらしい。こうして多くの人が足止めを食らっている中私はまさに他人事。

こちら、足止めを食らっている人たち。車が停まっているところからも分かる通り、車道は下から通じてます。ただし、一般車は通行止め。そうじゃなきゃ、私のようなアホを筆頭にしてみんな車で山頂に来るさね。

ヴルムベルク(Wurmberg)山頂全景。

こうして今度は逆方向から下山。

夏場のスキー場の活用方法として、マウンテンバイクと一緒にゴンドラで登り、下りは一気にマウンテンバイクで下れるらしい。面白そうだけど、ブキな私なら足の骨の1-2本は覚悟しないとできないだろうな。

こうして下山。駐車料金は3時間で€4.5。…お街の大分駅近辺より駐車料金が高いとはこれいかに。ま、楽しかったしゴンドラよりはるかに安くついたしこれでいいのだ。ちなみにゴンドラ駅周辺も駐車場は有料です。