ハルツ国立公園遭難(未遂)事件(1)


私の住むドイツ某所、イナカなんです…といういつもの書き出しで始まる今日のお話。

 

あえて、無理やり、力ずくでいいところを挙げれば山に近いのです。うちから海の方角、北を見るとまったくの平野なのですが、逆に南を向くと、車で小一時間も走ればハルツ山という山岳地帯があります。一帯は国立公園にも指定されており、麓の街は世界遺産に指定されているようなのもちらほらとあったり、山頂へはSLで登れたり、冬はスキーができたりとまあ、いろいろ楽しめるところなんです。個人的は某猫の真似をして「海なんてただの大きな水たまりじゃないか」と思っている山派の人なので、天気が良い週末は、ちょっとした「お散歩」にでかけたりするわけです。

その時に愛用しているのがこの本。

意訳:「ねぼすけさんのためのハルツ山ハイキングガイド」

おすすめのルートが地図と写真つきで紹介されているのですが、まあ、「こんなところがあるんだな」くらいの参考程度に使っている。なにせ、本文はいまいち要領を得ないし、地図もどこか頼りない…というか騙される。

その本の著者が、近所に講演会に来るらしい。ちょっと行ってみますか。

とりあえず掲載許可を得ていないのでぼかし入っております。

うちの近所の某所。早めに行ったら、著者のおっちゃんがヒマそうにしている。聞けば80近いじっちゃんらしい。おい、本の奥付の写真、相当昔の使っただろう。せっかくだからとサインをお願いする。

…まあ、ここまでは良かったんだわ。

この講演会がなんとも締まらない…もっと言っていいなら、つまらないものでして。私としては、本の中から特におすすめのルートを教えてくれるとか本には書けなかった裏話とか、そんなのを期待していたのですがただひたすらにスライドショーで写真を紹介していくだけ。話があっちに飛び、こっちに飛びとまとまりもない。スライドショーまで用意してるんだから、講演会慣れしてるんじゃないかと思うのだが、まあ、中学校のクラスの発表会程度…とまで言ったらさすがに言葉が過ぎるかしら。

しかも、どうもポインターの感度が良すぎるのか、設定を間違っているのか次の写真に行こうとすると、2枚とか3枚先の写真に飛んでその度にあたふたして…という繰り返しでこっちとしては話に入り込めない。

こう思っていたのは私だけではなかったようで、この手の有料の講演会としてはなかなかありえないことながら、途中で出ていく人まで現れた。一番うしろに座っていたから聞こえたが、主催者に帰り際にぶーぶー文句を言っている。その後も数人が中座して帰ってしまった。まあ、がっかりな講演会でした。

そんなことに凝りもせず、出かけたんです。この本を片手に。

出かけた先はヴェルニゲローデ(Wernigerode)の外れにある森。この本の通りに歩くと距離が10.2キロと結構長くなりそうなので、本の中に描かれた別ルートをショートカットに利用。これで距離は7キロ程度と2/3になる。

突然話は変わる(ように見える)んですがね、料理って、作り方を理解してそのとおりにすれば間違いはそうそう起こらない気がします。なんだけど、悲劇はその作り方を無視して勝手なアレンジを加えたりとかしたときに発生するような気がします。…それはハイキングでも同様かもしれない。まあ、詳しくはおいおい。

今回は計画的にGoogle Mapに徒歩ルートを落とし込み、それをスマホに送信。念のために地図をオフライン用にダウンロード。これで楽ちんに歩ける。よし、レッツラゴー。

車載動画よりキャプション。

スタート地点は森の中の駐車場。午後1時ちょい前に到着。夏時間開始前の土曜日。午後7時頃には平地でも暗くなることを考えると出遅れ感満載。

ふと子供の頃を思い出す。事業を営む両親は忙しく、休みは日曜日だけ。ごくたまに家族サービスとしてどこかに連れて行ってくれたんだけど、いっつも出かけるのは他の人が帰ろうとしている頃。たとえ連休で渋滞が発生していても、それはいつも逆方向(出遅れているから、他の人が帰る頃に観光地に向かっている感じ)。その状況が結婚しても変わっていないことに気がついて力が抜ける。

ともあれ、。この時点ですでに問題発生。すなわち、スマホが圏外。いや、すでに日本では存在しない2Gではつながっていたよ。つまり、音声通話はかろうじて可能だろうけどデータ通信は無理。…そんな山の中じゃないんだけどなぁ。

何が問題って、オフラインにしたはずだったのにデータ通信が圏外だとナビをしてくれないの。つまり、ナビとしては全くの役立たずに。これは困った。細かい地図など持ってないし。

歩き始めてすぐに水車発見。ああ、地図上にあったやつだわ。ただし動いてなかった。ちなみにこの写真では見切れているが、水車脇でなぜか男性4人が缶ビールを片手に宴会を開いていた。見た感じ、全員が飲んでいたが…まさかお前ら車で来てないだろうな。

振り返って撮影。

ブロッケンに向かう保存鉄道の線路下をくぐります。

参考画像。こんな感じで案内標識があったりなかったり。

要所要所に案内表示がある…のだが、これが痒いところにまったく手が届かない代物でして。たとえばこの分岐、どちらに進んでいいのか悩むがなんの案内も無し。スマホは相変わらず圏外。なんとなく左のほうが轍があるのでそちらに進みます。

ちょっと悩む分岐。正解は左。
このあたり、どうも岩地らしく、もみの木がものすごい根性を出して自生してます。

途中で水車などを見物し、てくてく歩くこと小一時間。さて、第一目的地のOttofelsen(オットフェルセン)はこのあたりのはずなのですが。

え?こっち?

道、ないやん…。

いや、道なんてないんですがね。

ほんとにこっちでいいのか半信半疑…いや、まったく自信のないまま進みますと…

…なんかありますね。

自転車がいい大きさの対比になってます。でかい。

なんじゃこりゃー。

近づくと、ちょうど一組のハイカーが降りてきているところでして。このハイカーの身長から考えてもこの階段の高さは10メートルはある。

私の嫁、高所恐怖症持ちです。いや、私だってそう。だけどさ、あんまり情けない様子は見せられないじゃないですか。なので、余裕を持ったふりして聞いてみると、「ついてくる」とのこと。その心意気や良し。だまって俺について来い(ブログの中でくらい亭主関白決めさせてください)。

…とは言ったものの、これ、階段じゃない。梯子。はしご酒は好きだけど、梯子は嫌い。私が先に2/3くらい登ったところで嫁がなにか情けない声出してる。嫁がどのあたりまで登ってきたのか定かではない。なぜなら私は下を見ることができなかったから。わかっていた。下を見たら動けなくなるって。なので、余裕を持ったふりぶっこいて

「じゃあ下で待ってな」

と股間にへんなものを感じながら登る(たぶん男性にしかわからない表現)。これ、降りられるのかな…と不安になりながら。

たかが10メートルで大げさな…と高所恐怖症じゃない人は思ってるはず。わかってくれとは言わないが、10メートルってリアルに死を予感できる高さだよ。4階建てのビルの屋上に登れって…けっこう怖いぞ。

果たして戻れるのか不安になりつつ登り尽くした。そこで私が見たものは…

まだ上があるんかいっ。

…というか、ある意味ここからが本番。誰だ、こんなところに階段(だか梯子)と柵をつけたアホンダラはっ。

…これは全くを持って梯子です。階段というカテゴリー外です。全くを持ってありがとうございます。

「踊り場」にて。下を見ると…20メートルかそれ以上真っ逆さまに落下できる状態。

この次の踊り場では写真を取る余裕などすでになし。


この写真では伝わらないでしょうが、傾いてるんだ。頂上は。まったく安心できない。

登りきったはいい。だけど、平らな場所などないからまったく安心できないのだ。そんな中で一生懸命撮影したパノラマに刮目せよっ(上の写真、ぐりぐり左右に動かせます)。

降りるのがまた怖かった。特に最後の10メートル超の梯子。考えると動けなくなると思い何も考えずにしがみついて降りた。ほんっっとに怖かった。

下から改めてみたら更に怖くなった。

オーバーハングしてんじゃん…。

もっと引いた画像だと、何がいいたいかおわかりいただけるかと…。

長くなったので続く。