夏休み自由研究。RyanairのFA観察日記。

ある日のこと。例によって「無料」の航空券が手に入ったのでくされRyanairに乗る。無料と言っても税金クレジットカード使用手数料(なんじゃそりゃ)や、空港での搭乗手続き手数料(同)などで結局30ユーロ近くかかるのだが。それでも無料は無料とこいつらは主張する。


くされRyanair。原油価格の高騰を受けて経営利益が85%も減ったらしいのだが、それでも黒字ということにはある意味ですごいと思う。まあいい、このことはもう何度も書いた。じゃあなんでまた日記のネタにするかというと、面白い座席に座ることができたから。ちょっと時間を戻して搭乗前から。


この航空会社、優先搭乗をしている。と言っても体の不自由な人とか、マイレージカードの上級客とかじゃなくて、5ユーロ払って「優先搭乗権」を買った人から。行列が「優先搭乗者」「その他大勢」に分けられている。


5ユーロを払って人より先に乗りたいという人の神経もわからないが、それ以上にわからないのは出発時間の1時間も前から並び始めるやつら。1時間ちょっとのフライトでちょっといい席に座るために1時間も床に座ったり行列するってのはいったいどういう意味があるんだろう。

Bremenにて


(おなじみのブレーメン空港にて。なんか徹夜でコンサートチケットを入手しようとしているような趣もあるな。ホントに床に座ってまで得たいものっていったい何よ)


私の考えるRyanairのB737-800型の189席のうちのいい席は最前列と機内中央の羽の上にある二列の非常口席。これらの席は足元が広く「あたり席」である。ただし、これらの席は3列18席のみ。その他の171席はどこに座っても同じ。だから、ほんっとにわからないのだ。こいつらが早くから並んで何を狙っているのか。確かに私の言う「あたり席」を狙っている人もいるが、それだけではなさろう。


その証拠に、いよいよ最後のほうに乗ってもあたり席の非常口席の中央は少なくとも一つは必ずあいている。かくして、私は出発1時間前から床に座っている人たちを横目にベンチにのんびり腰かけて最後のほうにのんびりと搭乗するようにしている。


この日は出発時刻になって聞きづらい放送で「ヒコーキが遅れます」と単純明快なアナウンス。何分遅れるかなどの説明は一切なし。ひでかすにメールしてみると、Ryanairのサイトには1時間遅れの見込みと出ているとのこと。実際にヒコーキの席に座っている時間より長い時間空港の冷たい並ばれている皆様、おつかれさまです。


それから30分後、突然搭乗開始のアナウンス。不思議だ。なぜ、ヒコーキが着いてもいないうちから搭乗開始できるんだ?が、座っていた人たちも一斉に立ち上がる。地上職員が搭乗券の半券を回収開始。


それから数分後にヒコーキが到着。さらに5分後くらいに最初の乗客が降りてきて、それから10分後くらいに搭乗開始。


かくして、出発予定時刻より40分遅れで搭乗。いつもどおりあとのほうにのんびり搭乗。いつもは後ろから乗るのだが、この日は前のほうが空いていたので前から搭乗。すると、ちょっと信じられないことに最前列通路側の大当たり席1Cが空いている。ABに座る女性二人に聞くと空いているとのこと。ラッキー。この席に座ろう。


この席、ドアの真横で、しかも、ドアまでの間仕切りがない。つまり、フライトアテンダントのジャンプシートと向かい合うことになる。足元が広いのはそうだけど、それ以上にフライトアテンダントのジャンプシートでの会話、ギャレイでの会話が丸聞こえなのだ。そう、長くなりましたが、これが今回の日記のネタなのです。


まず。今回のフライトはいつもと大きく違う点が二つあった。通常フライトアテンダントはアイルランド人やイギリス人ではない平たく言えば英語を母国語としない人々。聞いたところによると東欧からかなり安い給料で人を引っ張ってきているらしい。ともあれ、英語を母国語をしないという点は同じ立場の人間として不問としたいのだが、だけど、下手したら去年まで高校にいたんじゃないか…ってな風情の人たちが、はたして非常時なんかに役に立つんだろうか…という一抹の不安を覚えるのは事実。


その代わりと言っていいのか、操縦席に入っている機長と副操縦士はアナウンスから判断するにいっつもわりかし年配の英語を母国語とする人が入っている。落ち着いた声で現在の飛行状況なんかを説明されるとやっぱり安心感がある。


が、今回は違った。フライトアテンダントに2名のアイルランド人(アクセントより判断)が搭乗。そして二人の名前と外見から判断するに東欧の女性が二名。二人のアイルランド人がフライトアテンダントにいたのに対し、操縦室のお二人はは英語を母国語としない人(正確には副操縦士はちょっと自信がない)。だからどうしたと言われたら困るんだけど、このパターンは初めてだったのだ。


で、フライトアテンダントさんたちの観察開始。この日のフライトアテンダントのスーパーバイザーは東欧系の女性、その隣はアイルランド人の女性。


「今日の搭乗者は159人ね」


…搭乗率約85%か。そのうちの何人が運賃タダで乗ってるんだろう。


ドアクローズ。このドアがまた重そうなのだ。女性一人ではなんかバランスを崩して転落してしまうんじゃないだろうか…と心配になる。非常用のスライドをセットするのだが、しばらくしてもプッシュバックが始まらない。コックピットから内線が入り、スッチーさんはさっき閉めたドアーをもう一度開け、外についているドアノブ(っていうのかな)を回してまたドアを閉める。また、そのさまがよろけて機外に落ちてしまうんじゃないかというくらい頼りない。大丈夫なのかな?


離陸前に非常用設備の説明が始まる。昔はフライトアテンダントの一人が話していたのだが、数年前から録音テープに変わった。聞き取りづらいとかいうクレームでもあったのだろうか。が、逆にドイツ語での録音テープは毎回かならずドイツ人から失笑が起こる。私にすらなんとなく発音が下手だというのがわかるのだ。


ふと横を見ると、最前列右側の2DEF席(1DEFはギャレイのため欠番)には母親と6歳4歳くらいに見えるコドモ二人。その席にはでかでかと


「この席は非常口席のため、子供やお体の不自由な方は着席になれません。荷物も離発着時には置けません。これは法に基づいた要請です」


と書いてある。まずいんじゃないのかな。これ。が、しかしフライトアテンダントは意に介さず。


いよいよ離陸するという状態。この会社絶対に事故が起こらないという確信があるんでしょう。ジャンプシートに座った二人のフライトアテンダントさんは非常口席に子供が座っていることも、ヒコーキがどんな状態にあるかなどにも興味がなさそうで女性雑誌の記事をネタに雑談中。


いよいよ離陸しても我関知せず。雑誌の中にあった記事。何でも上空10,000mを飛んでいるヒコーキのドアを開けようとしたヨッパーがいたんだと。詳しくはここでも見て。ちなみに、件のヨッパーの写真と思われるものもあった。ともあれ、酔って「新鮮な空気を得るために」ヒコーキのドアを開けようとは救いようのないアホタレです。酒は飲んでも飲まれるな。飲んだら吐くな、吐くなら飲むなと改めて思いますね。私なんか、酔っても寝ちゃうだけだから可愛いもんだ(当社比)。ともあれ、この記事を見ての会話。


アテンダント1(東欧系):「ねえねえ?この記事見た?上空10,000メートルでドアを開けようとしたって話?」
アテンダント2(アイルランド人):「ええ?そんなことがあったの?」
ア1:「そんなことしたって開くわけないのにね」
ア2:「え?そうなの?」


…唖然。私だって理系のネタには全くついていけない人だけど、ヒコーキは上空で与圧されていることくらい知っている。私の理解が正しければ、上空10,000mでは空気が薄いので機内を地上の気圧と近くするために圧力がかかっている。その圧力差のため、万が一にも機体に穴が開くと爆発的な減圧が起こりヒコーキの飛行に致命的な影響が出る。


つまり、ドアが万が一開いた日には、シートベルトをしてない人はもとより下手したら座席ごと人は吸い出されるんじゃないだろうか。でも与圧されているおかげで中からドアを開けようとしてもそう簡単には開かないはず。…てかさ、あんたRyanairの訓練で何勉強してきたの?機内サービス時の営業スマイルも習ってなければ、非常時に役に立つかもしれない航空機の知識もないんじゃ、いったいあんたらの存在意義って何よ?


そのくせ雑談にだけは余念がない。東欧系のフライトアテンダントは受話器を取ってコックピットに電話。


ア1:「(東欧系の言葉で話し始める)…。今そっちはどんな状態かって聞いたの(あ、冗談のつもりなのね=私)。え、けっこう遅れを取り戻せそう?10時40分に着くの?それは早い。早く帰ろ~」


そして、食事・飲み物の販売開始。いい商売。ただの粉のインスタントのくせして“very special”を自称するホットチョコレート3ユーロ。サンドイッチ5ユーロ(から)などなど。けっこうな数が売れている印象を受ける。私は何も買わない。


実は、前回あまりの空腹に耐えかねて自称「グルメサンドイッチ」を買ったんだけど、ばさばさのパンをむりやりバターでごまかして、中の鶏肉もばさばさ。これを6ユーロで売れるのはおそらくRyanairの機内だけ。メニューに書いてない裏メニューのアイスティー(砂糖たっぷりの激甘缶入り飲料なんだけど150 ml ではなく330mlな缶入り飲料はこれだけなのよねん)2.5ユーロと合わせて8.5ユーロ。アイスティーと一緒に渡された見たこともないくらい薄い使い捨てのグラスを指でべこべこ潰しながら、日本で1400円出せば何が食べられるかを考えて涙が出てきそうになった。


そうそう、さらに昔に頼んだしつこいけど自称「ワインを愛する人のための特別なワイン」5.95ユーロ(1000円)のボトルは指先で簡単につぶせるうすいペットボトルだった。ガラスのビンじゃない容器に入ったワインはほかのどの航空会社でも後にも先にも見たことがない。Ryanairのコスト削減策、もう芸術の域にまで入っていると言っていいだろう。


で、今度はスクラッチカードの販売。なんでも録音されたやたらと嬉しそうな女性のアナウンスによると“You can really join Millionaire club with Ryanair”なんだって。なんでここだけ英語で書いたかというと、「ミリオネア「ライアンエアが韻を踏んでいるように聞こえてミョーに印象に残るのだ。1枚2ユーロの当たるとは冗談にも思えないカード。こんなもん、Ryanairに寄付をするようなもんだと思うのだが、買うやつがいるんだねえ。アイルランド人のフライトアテンダントがカードを持ってキャビンを一回り。


ア1:「何枚売れた?」
ア2:「8枚…じゃなかった、ええと4枚」


自分の航空券が「タダ」だったことを気に病んで8ユーロを寄付された人がいるのだろうか。それとも、「こんなヒコーキに乗らなくてすむ億万長者になろう!」という射幸心をうまく煽っているのだろうか。


続いて免税品の販売。いや、EU内でも免税品なのかな?お土産品なのかな?よくは知らん。東欧系のフライトアテンダントがアナウンス。


ア1:「…(前略)などをご用意しております。お求めの方、ご質問のある方は…(ギャレイにいるアイルランド人のほうに助けを求めるような顔を見せる)」
ア2:「シネイドよっ、シ・ネ・イ・ド(Sinead)っ」
ア1:「…シネイドがお近くを通りがかったときにお知らせください。(マイクを切って)シネイドなんて発音できないわよ!」


…じゃあ、名前なんか言わなきゃいいのに。


件のSineadさんは香水やおもちゃなどをカートに載せて出発。なんだか香水の箱の角が曲がっていたりくたびれた印象を受ける。私がコドモだったら、Lufthansaのヒコーキモデルはほしくても、Ryanairのはいらないなあ。時計とかなら大きな空港の免税店や町のデパートでゆっくり見て買うだろうから、買わないだろうなあ。


数分後、Sineadさんは帰ってきた。


ア1:「売れた?」
ア2:「何にも売れなかった」


…そうだろうなあ。そういえば、記憶が定かじゃないけどだいぶ前に日本の国内線に乗った時にも「機内でのみお買い求めいただける乗務員も着用しているミッキーマウスのエプロン」を売ってたけど、あれも悲しいくらい売れてなかったなあ。エプロン1枚確か5000円はひどいと思った覚えがある。ああいうことを日本でもいまだにやっているのだろうか。


午後10時50分、予定より40分遅れでダブリン着。月ほども遠いゲートの中でも一番遠いゲートに到着。…が、いつまでたってもドアが開かない。着陸後あけ放たれた操縦室のドアからフライトアテンダントの一人が入って行って、機長席後ろの席に座って例の英語が母国語ではないと思われる機長と話し始める。


機長:「到着便が重なって階段が来ないんだよ。(社内無線で)こちらXX、到着して10分経つんだけど(うそつけ、5分くらいだろ)階段が来ない。どうなってますか?」
無線:「3erfvj7hk65」
機長:「はい?」
無線:「54hgnodsw」
機長:「まだしばらくかかるって」


…お前、無線聞き取れてないだろう(かくいう私も聞き取れなかったけど)。はたして着陸の許可などはきちんと聞き取れていたんだろうか。


機長からの乗客向けアナウンス。


機長:「到着便が重なったため、階段の到着が遅れております。あと5分ほどかかる見込みです」


…その5分ってのはどっから出てきた数字だよ?


が、確かに5分後に階段はやってきた。階段から下りて、新人と思われるフライトアテンダントが先頭に立ち私たちを誘導。ビルの入口の到着口のドアを開けようとするが、開かない。暗証番号を何度も打ち込むのだが、開かない。ようやくさらに数分後にドアを開けることに成功。Ryanairのプロとしての仕事を満喫できた素晴らしいフライトでした。もう乗りたくないけどまた乗っちゃうんだろうなあ。