マシンガントーク3連発攻撃を食らう土曜日の朝


ダブリン滞在中の土曜日の朝、私は朝一番に髪を切りに行き、その後Specsaversというメガネ・コンタクト店で目の検査の後使い捨てのコンタクトレンズを買おうと画策。どちらにもちゃんと予約を入れて朝8時からバスに乗って街に出かけました。見事な計画だなと自画自賛しながら。

 

ところが。バスの中から見た風景がありえなくて…固まる。

 

 

…Specsavers、なくなってるんですけど。今まで10年とかお世話になったGrafton Streetの支店がなくなっている。

 

次のバス停で降りて現地に行ってみた。

 

ない。移転のお知らせなども一切貼ってない。

 

日本ではありがち。前回帰省時に行った眼鏡屋がなくなっていた…ってのは一度や二度の経験じゃない。だけどさ、Specsaversってたぶんイギリス・アイルランドで一番有名というかどこにでもあるというかのチェーン店。この支店がなくなったとしても他の支店はまだあるはずだ。

 

というわけで、Google大先生に聞くと、わずか数百メートル離れたDawson Streetに支店があるという。とりあえず、まだ早すぎるので開店時刻を過ぎたら電話するなり、聞いてみよう。

 

 

とりあえず、いつもの髪切屋さんに行き髪を切り、そののちDawson Streetにある別の支店に行ってみた。…ってか、ここ、新しいわ。いかにも新装開店…という趣。

 

聞いてみた。Grafton Streetの支店に予約があったのに支店が存在しないこと。予約変更だの移転のお知らせを一切受け取っていないこと。

 

店員:「Grafton Streetに予約があるのでしたら大丈夫ですよ。昨日までは『移転のお知らせ』を旧店舗に張り出していたのですが」

 

…なにそのあからさますぎるウソ(百歩譲っても出来すぎた話)。

 

曰く、6週間ほど前に移転したとのこと。私がオンラインで予約をしたのもちょうどその頃。ようやくつい最近になってGoogle上でこの「移転」が表示されることになったとのこと。…ちょっと言っている意味がよくわからないのだが、間違いなく私に移転のお知らせが来なかった理由にはなってない。

 

とりあえず予約の時刻までちょっと時間があったので街をぶらぶら散歩する。知り合いに会ったのでかくかくしかじかこーゆー訳で…という話をしたら信じられないことを言うのだ。

 

「え?オンラインショップでSpecsaversなんかよりはるかに安くコンタクトレンズを買えるよ」

 

…そうは言っても処方箋がいるでしょ。処方箋は2年かなんかで切れるはずだから更新しないと。

 

「あー、大丈夫。『処方箋を持っています』のところに印を入れれば買えちゃうから」

 

…なんですと?そんなことまでいい加減に済ませていいのか?この国は。そして、こんな不確かな情報をここに書いちゃっていいのか?

 

まあ、コンピューターの画面を起きているうちはずっと睨んでいるような生活をしているので目の定期検診は大事だと自分に言い聞かせ、Specsaversに戻る。

 

午前11時。私の予約はちゃんとあった。つまり、この支店はGrafton StreetからDawson Streetに移動しただけの話。確かにDawson Streetにある支店がGrafton Street支店という名前だといろいろ問題がありそうな気がする。…それはわかるけど…なんで連絡をしてこない?

 

受付のあの60年代か何かのようなかちっと決めた髪に大きな眼鏡をかけた…つまりは今どきの風体の受付の男性が私の納税者番号を聞いてくる。あ、そっか、社会保障の一環で眼科検診が無料で受けられるんだっけな。

 

アイルランドは意外と…とか言ったら失礼だが、日本よりよほど進んでいることもある。例えばこの瞬間。納税者番号を伝えただけでその場で私が無料で眼科検診を受ける資格があると確認された。

 

数分待機の後、コンタクトレンズの定期検診のために眼科医の個室に呼ばれる。40代の小柄なおばちゃん先生。

 

私:「おはようございます。先生には以前に診ていただいたことがありますね」

 

次の瞬間、なぜ私はこの先生のことが記憶に残っているかを思い出した。そりゃあもう驚くような早口で、歌うように話すのだ。

 

先生:「そうでしたっけねえ。私は記憶力が悪いものでねえ」

 

ここから先生のマシンガントークが始まる。とかくお決まりのセリフ、例えば「その台にアゴを乗せて額を上の棒にくっつけてください」と言ったセリフは確実にミュージカルになって歌う。で、その後も止まらないのだ。

 

「はい。上見てください。うちの息子がね、語学を学んでてね、はい私の肩の後ろ見て…ロシア語と日本語勉強しててね、日本語は、はいまぶたパチパチして、ひらがなもカタカナも漢字もみんな勉強して、はいまぶた開いたままにして、ロシア語もね…」

 

…をありえない早口でまくしたてるのだ。

 

この先生に言われたことは、「もうすぐ老眼が始まる。あと4年で始まる。これはもう順番だからしょーがない。それから目が乾いている。コーヒーたくさん飲んでるでしょ。オメガ3のサプリメントを摂りなさい」

 

私は私であと4年で始まるのくだりでIt’s a final countdown dadadada-と歌いながらツッコミを入れる。ハタから見るとおかしな二人だったろうなと思う。

 

さらに先生は歌いながら、コンタクトレンズの定期購入を勧めてくる。本当に歌になっているのだ。丁重にお断りする。

 

そして、待合室に一度戻される。この時点で使っていたコンタクトレンズは外して捨てたのでほとんど何も見えない状態。マンガだったら目が数字の3で表現されてる状態ね。

 

そんな状態なのに待合室の数メートル離れた場所から話しかけてくる人がいる。モロッコあどこかから来たのかな…と思われる女性。

 

女性:「すいません。あなたは中国語を話されますか?」

 

…いいえー、私はとっても日本語が上手ですが中国語はさっぱりダメですねえ。

 

と言いながら見えない目を凝らすと、女性には連れと思われる人がいてこちらはアジア人。

 

女性:「それは失礼しました。今実は中国語を勉強してまして、こちらの友人は韓国人で…」

 

…と今度は待合室でもマシンガントークが始まる。さっきの眼科医の先生のおかげで変な耐性がついていたが、考えてみるとちょっと変だな。フツーこんなに馴れ馴れしく話してこねえよな…とか思っていると、係の人が私を呼ぶので席を立とうとすると

 

女性:「日本語で書かれたチラシがあるので受け取ってください」

 

と言いながら、なにやら確かに日本語で書かれた短冊状のチラシを受け取る。

 

 

人生の疑問の答えはどこにありますか(ホントに日本語だし…)

 

……なんじゃこりゃと裏返してみると、ナントカの証人とか書いてある。

 

…あー…私は何かを察した。触らぬ神になんとやら…というやつですね。

 

今度は別の眼科医の診察。最初のはコンタクトレンズのテストで、今回は目の定期検診。なんでいっぺんにやらないんだろう…という疑問もあるけど、二人目の先生の診察は社会保障でカバーされるので支払い不要だし、何かしら理由があるんだろうな。

 

こちらの先生の小部屋も窓がない真っ暗な部屋。すっかりマシンガントークモードに入っている私、ついと余計なことを言ってしまうのだ。

 

私:「こんにちはー。新しい場所に移ったのにまた窓がない部屋なんですねー」

 

先生は一瞬何も反応しなかった。あ、なんかまずいこと言ったかな。ほんの僅かな、でも私にとっては長く感じた間のあと、

 

先生:「君は建築家か何かかね」

 

私:「いいえー、でも、ほら、ホテルとかで自分の部屋に窓がないと嫌かなーって」

 

冗談の通じない堅物にいらんことを言ったのかと思ったら全然そんなことはなかった。日本なら間違いなく「ナイスミドル」と呼ばれるカッコいい50代のおじさん先生もまたよくしゃべる。曰く、眼科医の部屋は暗くないといけない(そりゃそうだ)、ハイテク技術で窓を一気に暗くすることも可能だが(B787の窓みたいなやつかな)。

 

幸い、この先生はさほど早口ではなく、いろいろ説明してくれる。2010年に撮った私の眼球の写真とさっき撮った写真を比較し、緑内障などの進行は見られないことなどを丁寧に説明してくれた。

 

先生:「あー、もうキャロライン(仮名)にコンタクトレンズのチェックをしてもらったんだね。いやー、彼女とはもう16年とか仕事してるんだけど…いや、ボクもね、けっこう明るくておしゃべりなんだよ。だけど、彼女と比べるとね…」

 

…もしかしてあなたもマシンガントークタイプですか。と言っても、件のキャロライン先生に比べるとおとなしいものだったが。

 

先生:「老眼があと5年で始まるだろうねえ」

 

私:「お言葉ですが、先生…キャロライン先生は4年って言われましたよ。ま、4,5年で確実にそうなるってことですね、わはは」

 

なんだか私のテンションはいろいろおかしかった気がする。

 

こうして検診終了。無事にコンタクトレンズの処方箋ももらい、使い捨てのコンタクトレンズを購入し、退散。後で気がついた。

 

 

…処方箋のお店の住所、旧住所のままじゃん。

 

そして素直な私は(当社基準による)提案通りOmega3オイルとやらを買って飲み始めました。

 

容器がやたらデカかったのでおもわず比較のためにガムを横においてしまいました。