高貴なハンサム顔半シャム猫様がうちの子になる…かどうかのお話


うちの可愛くない、懐かない猫がトラクターに轢かれていなくなったのが数ヶ月前。けっこう嫁が落ち込んでまして、それを見て私も心を少しは痛めたわけです。


そんな私達のもとに、猫の里親募集のお知らせがやってきた。(イナカの車利用を前提にした)ご近所に、里親が必要な猫がいるそうな。嫁が食いついた。


完全犬派の私は、最初から猫に対して斜に構えて見ているフシがある。なので、この話だって、まず疑ってかかったわけ。


素朴な疑問:なんでこの猫は里親が必要なんだろう。


もっともでしょ。ありえる事情としては、たとえば飼い主が転勤で、転勤先でどーしても猫が飼えないとか、コドモに程度の重い猫アレルギーが発症したとか…まあ、そーゆーことならわかる。だけどさ、たとえば猫の鳴き声がうるさすぎてご近所から抑えきれないクレームが来たとか、教育のなってない猫で家中をぐちゃぐちゃに壊してしまう…とかだと問題でしょ。これは調べないと。


調査の結果、以下のことがわかった。


猫は4歳オス。シャム猫。飼い主は70代女性。他の飼い猫とうまく行っておらず里親が必要。


ふむ。


私は猫に詳しくないが、シャム猫が難しい性格、ひいては他の猫となかなかうまくいかないことくらい知っている。じゃあなんでそんな猫と他の猫を同居させようとしたんだろうという素朴な疑問が出てきたが、百聞は一見に如かず。見に行ってみた。

あら、高貴。


今まで飼っていた猫が、あまり美形とはいえない(そこ、人のこと言えるのかとか言わなくてよろしい)猫だったので、このハンサム顔の(と猫に言うかは知らん)シャムにびっくり。あれ、私の知るシャム猫って顔が黒いんじゃなかったっけ。あの顔の黒さが正直あんまり好きじゃないんだけど。飼い主のおばあちゃんいわく…


「シャム系だけど、混ざってるらしいわよ」


…なるほど。いい意味で混ざってますね。…あれっ、ってか、なんで伝聞系?


長い話をまとめると、このおばあちゃん、ペットホテルのような場所に勤めていたかなんかで猫の里親探しなどもたまにやるらしい。で、このハンサム顔半シャム猫も、もともとはフランスで生まれたんだけど、地元に戻ってきた学生さんが、親との同居かなんかの理由で文字通り、「泣く泣く」手放しだんだと。で、目下里親募集中と。あれっ、じゃあ、「うまく行ってない」とやらのもう一匹の猫はと言えば…


「今はペットホテルに避難させてるわ」


なるほど。


で、この高貴なハンサム顔半シャム猫様、実にいい子だった。家を見回したが何か壊されたような形跡もないし、何より人懐っこい。一緒に遊んでああ、この子ならいいなと私は心の中で決める。結局、ちょっと考えさせてください…ということでおいとまする。


外に出るなり、嫁は


「気に入った。あの子、うちの子にする」


…というと自信があった。ところが、嫁の第一声は私の想像とはまったく異なるものだった。


「うーん、私、あの子に惚れ込まなかったわ」


お前さてはブス専かよ…と心のなかで突っ込んだがもちろん言わない。だいたいそうだとするとダンナに選ばれた私は…ということになる。まあ、第一印象は大事かもしれない。


その第一印象云々以前に、問題があると。実は猫を見に行く前に二人で話し合って決めていたことがある。


今度の猫は家飼いの猫にしよう。


理由は単純明快。前の猫はトラクターに轢かれた。さらに前の猫はある日突然帰って来なくなった。どれもこれも家にいれば起こらなかった悲劇。なので、家で飼う分には問題はないだろうと。


最初、嫁はこの意見に反対だった。猫のQOL(Quality of Life=生活の質と訳せばいいのかな)はどーなるのかと。家の中に幽閉される猫は本当に幸せなのかと。


私もほんのすこし前までまったく同意見だったのだが、ダブリンのひでかすとまっきーの家にいる猫を見て意見を変えた。この子、家猫だけど外に出たがっている様子もないし、ストレスがたまっているようでもない。まったくかわいそう…という様子ではないのだ。


こんな議論は死刑廃止論と同様議論百出、意見は出尽くしていると思う。家の中に猫を閉じ込めるというのは人間のわがままである…と言われればごもっとも。だけどさ、猫を去勢した時点でもう人間のわがままが体現されてるんじゃないかなとか考え始めると、もし、外を知らない猫なら、知らないままでいいじゃないか…という気もしてきたのね。


というわけで、うちに戻り、階下の嫁父に聞いてみた。


「家飼いの猫ぉ?ダメだダメだぁ。猫は外に出ないとダメだぁ」


…話にならなかった。それでも飼うのは自分たちなんだから…と飼うことも可能だったろうけど、嫁いわく、嫁父が「うっかり」ドアを開けっ放しにして猫が出ていってしまうことは必ず起こるという。しかも、子猫から飼っていなかった猫は、一度ドアから出たら二度と戻ってこないんじゃないだろうかという疑惑と、おまけに、飼い主のおばあちゃんいわく


「この子はねえ、いつも外に出たがっているのよ。ドアベルが鳴るといつもドアの前まで走っていくのよ」


…そういえば、お邪魔した時この高貴なハンサム顔半シャム猫様はおばあちゃんの腕の中だったな。あれはおばあちゃんに懐いていたということもあるのだろうが、それ以前に勝手に出ていかないようにしていたんだなと合点がいった。


まあ、以上が数日前の話でして、けっきょく丁重にこの話はお断りしました。その後、新しい里親もすぐに見つかるだろうとのことでその点は心配していないのですが、嫁が


「やっぱり連れてくればよかった」


とぶつぶつ言い続けているのがなんとも。だったら最初から強くそう言ってくれたら援護したのに…と私まで違う意味でぶつぶつ言ってます。


謹告:アイキャッチ画像(最初の画像)は「資料映像」です。歴代を含めてうちの子じゃないです。ぱくたそさんよりお借りしてます。