涙の季節に日本人村を訪れる

また、この季節がやってきました。毎年、避けて通ることの出来ないこの時。この時が来ると、私はこらえきれずに涙を流します。本当に口惜しいのですが、自分を抑えることが出来ないのです。


こと、ドイツに行ったときがつらい。ドイツに着いて、空港から出て、その春から夏へかわりつつある陽射しの下ではもう、その涙から逃れることはできないのです。


この季節が来なければいいと何度思ったことか。私は毎年涙をこらえつつ彼女からもらった手紙を持っていつもの場所へ出かけます。なんとか、辛くてもこの季節を乗り切るために。そして、出かけた先で、私はその手紙を見せつつ、こう言うのです。


私:「か、花粉症の薬ください。ぶ、ぶえっくしょい」


…そうなんですよ。来ました。花粉症の季節!薬局に処方箋持参で薬を買いに行きました。


日本ではスギ花粉の頃、すなわち、2月から4月あたり、私は毎年鼻の下を真っ赤にして過ごすわけですが、なぜかアイルランドでは(少なくとも私には)6月が花粉症の季節になります。ドイツでは暖かくなるのが早いのか5月がピーク。そのほかの国は、わざわざ航空券を買って自分に花粉症が出るかどうか調べる気にはならないので知りません。なお、私が日本に住んでいなくてシアワセだと思う理由を挙げよといわれたら、真っ先に花粉症で数ヶ月悩まされなくていいことを挙げると思います。


こちらでは日本みたいに数ヶ月くしゃみ鼻水鼻づまりに悩まされたりせずに、悪いのはせいぜい2週間程度というのが救いか。去年に至っては冷夏だったかなんだか知らんが、少なくとも薬を飲もうという状況にならないままその季節が過ぎてしまった。だけど今年はダメですね。知り合いのお医者さんから処方箋をもらい薬局に行って薬を買いました。やれやれです。


そう、ちょっと用事があってドイツに行ってきました。でね、デュッセルドルフに行ってきたのです。


ほかは知らんが、ここ、変な町ですよ。アイルランドにはないもの…すなわち日本人村があるんです。日本国の総領事館、商工会議所を皮切りに、日本食のスーパーマーケット、日本食レストラン数件、本屋が数件、日系旅行代理店に某デパートから総菜屋、果てはクリーニング屋に至るまで、壮観な勢いで日本関係の店が並んでいて、行きかう人も圧倒的に日本人が多いです。


いやなんともはや、ダブリンには日本人街などないし、いいか悪いかは知らんが、あまり日本人同士の横のつながりもない模様。いや、あるいは大使館だか駐在企業あたりではあるのかもしれんけど、少なくとも私の知らない世界。ゆえに、デュッセルドルフのように町の中心に程近いところに日本人村が形成されているともう驚くしかないのです。


写真は撮ってません。なんか日本人だらけのところでカメラを出すというのは気恥ずかしいので。とりあえず、文章だけですがこの日本人街はこんな感じです。


デュッセルドルフの空港から中央駅にはS-Bahnという近郊列車が頻繁に出てます。確か20分おきで所要15分とか。で、中央駅のメインの入り口から向かって右手1本目の通りを数百メートル進むと件の日本人村が現れます。ツーリストインフォメーションの脇の通りなので、この通りが見つけられないという人はたぶん東京駅の八重洲口を見つけられない人です。


まず目に飛び込んでくるのが、でかいビル。ここには日本国総領事館、デパートに某商社までビル全体が日本のビルという感じのビルがあります(入ったことはないけど)。ここを左手に眺めつつ進むと今度は日本食レストラン(同じく入ったことはないけど)、そして日本語専門の本屋。


本屋ですよ。本屋。日本語で書かれた本を売っている。こーゆーもんがあるということがもはや信じられないわけで。ただし、文庫本が8-9ユーロ程度と、日本の3倍くらいの価格になっているのが痛いところ。ま、関税だ付加価値税だなんだとかかるのはわかるんだけどね。


そして、さらに進むと、レンタルビデオ屋にクリーニング店、どちらも日本人向け。さらに別の本屋が一軒。こちら、間口は狭いけど奥は広いです。たまには日本語の新聞でも買ってみますか…と中に入る。すると、レジの横に


本日新聞は無料です。


…と書かれて新聞が山積みされている。マジかよ?一部3.5ユーロとかするのに。


私:(レジのお姉さんに向かい日本語で)「新聞ホントにいただいてもいいんですか?」
レジ係:「はいどうぞー。あ、こちらにおまとめしたのがありますのでよかったらどうぞ」


と、ビニール袋に朝日と日経と広告が入った「セット」をくれた。タダで。ありえねー。


…と、感謝しつつ他には何も買わずに(こら)、外へ出る。外に出たとたん、チラシ配りのお兄さんが


お兄さん:(日本語で)「おねがいしまーす」


とくれたのがこちら。

日本語のチラシ(お菓子つき)


日本語のチラシかい!


おいおいおい、日本語で広告を配るんかい?…てか、そんなことをする価値があるほど日本人がこの通りを歩いているのだろうか。ダブリンのどっかの通りでもしわたしが日本語のチラシを100枚日本人に配れといわれたら、一体全部配り終わるのにどのくらいかかるのだろう。たぶん、中国人にも渡してしまうか、はたまたリフィー川に捨てるかどちらかだろうなあ。


そして、通りを渡ると今度は日本食のスーパーが出てきます。売り場面積は日本の典型的なコンビによりやや広いくらいか。ただし、デリカウンターなんかもしっかり完備されている。この店に謎のとっつあんがいるのです。レジにいつも座っているとっつあんなんですが、このとっつあん、見るからに日本人です。かく言う私だって上から見ても斜め45度から見ても逆さにしてもすかしてみても日本人です。なのに、このとっつあん、私にドイツ語で話してくるのです。


とっつあん:(ドイツ語で)「20ユーロ52セントです。ありがとうございましたー」


…なぜにドイツ語。いや、私が日本人かどうか判断がつかないってならともかくさ、誰がどう見ても日本人の私にドイツ語で話してくるってどうよ。しかも、支払いに使ったEurocard、疑いなく日本人の私の名前がはっきりと書かれているんですが。


で、実はこれは数ヶ月前の話。で、今回、また、このスーパーに行ったわけ。はたしてこのとっつあんはいつものようにレジにいた。私の前で別の日本人が支払いをしていたのだが、この人には、このとっつあん


とっつあん:(日本語で)「5ユーロ30セントです。ありがとうございました」


あれ、日本語かい?


で、私の番になると…


とっつあん:(ドイツ語で)「15ユーロ79セントです。ありがとうございました」


なぜ?なぜ?私はなんらかに理由で嫌われているのでしょうか。それとも、常連にならないと日本語で話してくれないとかいうオチなのでしょうか。


腑に落ちないまま、そのまま列車の中でお弁当を食べようと思い、総菜屋さんへ(んなもんがあるのがすげーよな)。お弁当屋さんに入るなり若いアルバイト風の女性の店員さんが数名(当然日本人)…


店員:「いらっしゃいませー」


…ここは日本のコンビニかい!(と、日本語で対応されてもドイツ語で対応されても文句を言うやつ)


店員:「お決まりでしょうか」
私:「ああ、じゃあ、この鶏の照り焼き弁当を」
店員:「はい。ありがとうございます。6ユーロ50セントでございます」


…あれ、なんで円じゃなくてユーロなんだと一瞬思ってしまった自分に笑ってしまった。


デュッセルドルフの日本人村、たまに行く分には面白いです。働きたいとは思いませんけど。