【2015ドイツ式結婚行進曲:5】披露宴パーティ(2)


話を戻そう。人が揃ったところで私と嫁のスピーチ。これも散々悩んだのよ。だって、何語でやればいいの?って話。ドイツ人とアイルランド人と日本人という変な取り合わせ。ドイツ語でやるとアイルランド人が文句言うだろうし、その逆も正なり。ごめん、悪いが人数で言えば少数派だった日本人のために日本語でやるという選択肢はなかった。


さらに、内容でもさんざん悩んだ。数年ほど前に嫁の家族の一人の結婚式があったんだけど、この時の新郎のあいさつの評判がすこぶる悪かったんだわ。スピーチの全文はここに書き起こすことができます。


「皆様、ビュッフェによる食事の準備ができました」


…これだけ。あとで友人関係から「いろいろ準備をしてくれてありがとう」くらいのひとことがあっても良かったんじゃないの?とかいろんな文句を言われてました。


その件があって、私、その後に参加した数回の結婚式の新郎新婦のあいさつをかなり注意深く聞いてたんです。その中でピコーンと来るのがあったんです。


その結婚式は、新郎と新婦が参加者をひとりひとり紹介していったの。そんな難しいことじゃなく、「こちらがミシャエルさんで、私の高校の時の同級生です。よく一緒に通学しました」みたいな簡単な紹介で。


ここで思い出していただきたいのですが(って思い出すまでもないか)、私って日本人なんですよね。だから何…って、日本人って何が得意でしたっけ。カイゼンですよ。カイゼン。私もこの考えをどうにかしてよりよいものにしようと計画。そうだ、この会場にプロジェクターを持ち込んで、写真とともに参加者紹介したら受けるんでね?


話は前後するんだけどさ、友人にDJが趣味という便利な…もといありがたい人材がいまして、この友人が今回のパーティーのDJの担当を快諾してくれた。ただ、一部の機材は自前では手配できないとのことで、これをレンタル会社から借りることにした。そのついでにプロジェクターも借りた。買うことも考えたんだけど、あまり自宅で使い道はなさそうだし、なにより4500ルーメンもするモデル(なにそれって人、よーするに業務用の明るいプロジェクターだという理解でいいです)は買ってもあとで持て余す。


それで、パワーポイントを使ってプレゼンテーションを作ったんです。さらにそれを使い、私が英語で話し、そののち嫁がドイツ語で話す…という方式で家でリハーサルをしてみたの。


…30分かかった。


いや、どこの要人のスピーチなのよ、30分もかかるって。これじゃあダメだと面白い(と少なくとも自分では思った)ジョークなどもざっくり削り、さらには私の親類や友人関係は英語とドイツ語字幕、嫁の親類縁者に友人関係はドイツ語と英語字幕という対応にしてなんとかスピーチを15分以下に収めることができた。ちなみに、日本語はどーなった…というと、日本人が集まっている席に例のケイコさんに通訳を頼んだ。なお、ケイコさんがちゃんと訳してくれたかどうかは確認していない。


で、本番でどーなったかというと、このスピーチが手前味噌上等、びっくりするくらい評判が良かった。


そのスピーチのあと、夕飯。夕飯はビュッフェでいろんなもんが出た。…が、残念ながら私はその日はほとんど食べることができなかった。これまた話が前後するんだけどさ、「その日は」っていう限定つきなのね。
今回の結婚式ざっと80人が参列してくださった。大雑把に嫁側が60人で私側が20人…まあ、「ホームとアウェイ」の関係なのでJリーグの地方での試合の観客の比率も調べたわけじゃないけどこんなもんじゃないかしら。


その私側の20人にはアイルランドから来てくださった人も含まれており、私としては出来る限り話をしたかったんだけどさ、やっぱり腰を落ち着けてのんびり話をするというのは土台無理な相談。それでも話をしようとかしてたら自分がごはんを食べる機会を見事に逃してしまった。それでも気が張っていたということもあってか当日空腹を感じることはなかった。

(私が一生懸命翻訳こんにゃくした日本語メニュー)


ところが、質実剛健(一部言語では「ケチ」とも言うようですが)なドイツ人、食べ物をムダにしないのよ。いや、もしか都市部は違うのかもしれんけど、私の住む某イナカではレストランで食べ残しを包んでもらうなんてのは「当たり前」の話。…はい、まさかと思われた方もいらっしゃるかもしれませんが、その通りなんですわ。この日の結婚式の食べ残し、その日のうちに食べないとまずいようなものなどを除いて、ぜーんぶ包んでくださいましたよ。で、うちに持って帰ってきたと。


…通常の結婚式の場合、翌日からこの食べ残し消費の終わりなき日々が続くらしいのだが、私達、このシリーズの最初に書いた通り、翌日から旅に出たのです。…じゃあいつ食べたのよ…ってことになるのですが、それは旅から帰ってきてから。いや、世の中には「冷凍庫」とかいう便利なものがあるんですね。しかも、うちの地下室には人間の死体くらい余裕で隠せるような巨大な冷凍庫がありまして(隠してません…私の知る限りは)。そこに嫁母(義母と書くべきなのか)が保管していてくれたというオチです。あとでスタッフが…じゃなかった、私たちがおいしく頂きました。


そんなわけで、食事もまあ、バイキング方式なのでダラダラ続くわけです。メインコースに鹿肉から豚からいろいろあったんですけど、これも何度も何度もおかわりする人も多数。それに対応するだけの量を作ってあるみたいだし、金銭的にも料理はお一人様なんぼで計算されてるから別にどんだけ食ってもらって構わんのだけど…よく食うわ、ドイツの人たちは。


ちょっと嫌な方向に考えると、ことイナカのことだから、こんな結婚式とかハレの日でもない限り、楽しいことがないのじゃないだろうか。なので、バカ食いをするんじゃないだろうか…とか考えたけど根拠はない。
で、結婚式のイベントの一つはダンス…なの。ダンスはうまく踊れない…とかいう歌が80年代に流行ったらしいけど、自慢じゃないが私はダンスなど踊れない。なのに、新郎新婦にダンスを強要するのだ。ドイツの結婚式は。


このダンス、まず私達が踊ることでダンスが「解禁」になる…と言えばわかりやすいかな。私達が踊らないとダンスの時間が始まらないのだ。


正直困った。だって、ダンスの経験なんて中学校の時の運動会のフォークダンスくらいだよ。で、ワルツなら簡単そうだと思いついた私、ダンスで何かいい曲がないか探す。とりあえず、この曲、何かしら二人の思い出の曲とか思い入れのある曲を選ぶべきらしい。


ワルツ…と聞いていの一番に思いついたのがレナード・コーエンのTake this Waltz。疑う余地なく神曲。これを選択。




で、これを持ってにわかダンスコース(個人レッスン)を申し込む。ダンスレッスンで、曲なしでワルツの基本を習う。いちにーさん、いちにーさん…あ、これならさほど難しくないわ。


ところが。じゃあいざTake this Waltzを使って踊ってみようかということになり、この曲にとんでもない問題があることに気がついた。すなわち、テンポが早過ぎるんだわ。PCを使って気がつかれない程度にテンポを遅くしてみたけどそれでもうまく踊れない。結局、めちゃくちゃスローテンポなMoon Riverを選択。なお、この曲にふたりともなんの思い入れもない。


深夜12時を過ぎたころ、この結婚式場のオーナーがウェディングケーキを持って乱入。…ってあれ、ウェディングケーキなど頼んだ覚えはないぞ。


種明かしをすると、お客様の一人がわざわざケーキを焼いてくださったらしいのだ。嫁も含めてまったく知らなかったのでこれは素直に嬉しかった。


そんなこんなで夜は更けて、最後のお客様が帰られたのは午前3時。アルコールを一滴も飲まなかった私はレンタカーのバンを運転して自宅に戻りましたとさ。