2ユーロのために背負うリスク

私、こう見えてもけっこう心配性なのかもしれません。本日、会社を1時間早退して午後3時に出て、6時のヒコーキに乗る計画でした。いつもは会社からクルマで直行するので遅くとも4時には空港に着いて空港でぼーっと2時間くらい過ごす羽目になります。


2時間はいかにも長いけどアイルランドはいろんな意味で信用できない。定時性のある列車で空港に着くことができない(空港への公共交通機関のアクセスはバスのみ)からこの2時間はある意味で必要な無駄な時間と言える。デモ行進のために道が混んでた、M50(高速道路)で事故渋滞があったなどいろんな理由でヒコーキに乗り遅れた人を知ってるけど、そのうちの誰一人として救済された(新たな搭乗券を買わずに次の便に乗れた)人を私は知らない。


でね、セコい私は空港での駐車料金をケチって空港にバスで行く計画を立てたのです。ところが、とんでもないダブリンの外れの辺鄙な場所にある私の勤める某社、ダブリンバスがほとんど1時間に1本の頻度の運行しかない。市内にビジネスパークより直行するシャトルバスもあるにはあるが、夕方は午後4時からの運行。それを待っていると本当に乗り遅れそうだから午後3時40分発のダブリンバスで一度市内に行き、そこから空港行き急行バスに乗ることにした。このバスが町につくのが午後4時半くらいとして、そこから空港行きの急行バスに乗ればおおよそ5時には空港に着くと踏んだわけ。ま、1時間あれば大丈夫でしょ。


もうこの日記の読者さんならご想像がつくと思う。その3時40分発のバスが来なかったのよねん。もうお約束ってやつです。最近ダブリンバスの信頼性は個人的には増してきてると思う。少なくともこのルートでは定時性がほぼ確保されている(もっとも1時間に1本のバスが来なかったらそりゃもう救いようがないのだが)。なので、ラッシュアワーでもないこの時間帯、信用してこのバスが定時運行されると信じていたら見事に裏切られたわけ。やれやれ。いったい私がアイルランドで期待を裏切られた回数と、さだまさしがコンサートで関白宣言を歌った回数はどっちが多いんだろう。


まあ普段なら「しょーがねーなー」の一言で済む話なんだけどヒコーキは待ってくれません。定刻の10分遅れの3時50分になり、「こりゃ来ねえな」と午後4時発のシャトルバスに乗るべく徒歩数分のところにある別のバス停に行こうとすると…お約束ですね。ダブリンバスが来やがった。しかも1時間に1本しか来ないはずのバスが2本まとめて(まったくもって意味不明)。


私、すんげー悩んだんです。10分後に出るシャトルバスに乗るべきか、それともこのダブリンバスに乗るべきか。たとえて言えば、今出る各駅停車に乗るべきか、10分後に出る特急電車に乗るべきか。鉄道ならXX駅で特急電車が追い越すから特急のほうが早いとかそーゆー判断が出来るのだが、バスの場合は不明。ただ、10分差なら間違いなく住宅地をぐるぐる回ってお客を拾うダブリンバスよりもシャトルバスのほうが早いだろう。バスに乗る瞬間まで後ろ髪を引かれたが、よく考えると短い髪の私に引かれる後ろ髪はない。ええい。ままよ。


ところが。ここで私にとってもセコい発想が頭をよぎったのです。すなわち、ダブリンバスなら一日乗車券で4ユーロで(520円)空港まで着けるけど、シャトルバスを使うと6ユーロ(780円)かかる(具体的な数字の根拠はマニアックすぎるので省略)。このたった2ユーロのために私はダブリンバスに乗ることにした。ヒコーキ乗り遅れたら2ユーロどころの騒ぎじゃないのに。


私のお金に対する感覚は二重基準というか明らかにおかしいです。来週末から日本に帰省するのですが、エコノミークラスは嫌だと運賃がほぼ倍になるプレミアムエコノミークラスを利用(さすがにビンボー人の私にはビジネスクラスは無理)。そんな無駄なことをしながらヒコーキに乗り遅れるかどうかって瀬戸際のときにたった2ユーロを節約するためにいらん綱渡りをすることに論理的な説明はつきません。平たく言えばアホ…なんでしょうな。


ダブリンバスに乗るときに私が気がついた。バスの行き先表示がおかしい。本来なら57番じゃなきゃいけないのに57Aになっている(バスの番号は架空です)。そもそも57と57Aはほぼ同じ系統。街から乗るといよいよ最後の最後でバス停ほんのバス停数箇所分だけ枝分かれしているのだ。鉄道で言えば京成線の成田空港と芝山千代田…といえば首都圏にお住まいの方にはイメージが湧くだろうか。あるいは、京王線の京王八王子と高尾山口。ほぼ最後まで同じ経路なのに、いよいよ終点という段階で枝分かれするわけ。で、来たバスにはなぜかその別系統の番号が書かれていた。なんでだろ?


程なくバスは発車したが、運転手さんが突然マイクで、


運転手:「ちょっと寄り道するけど気にしないでね」


と言ったかと思うと、突然バスはいつもの経路から外れる。そう。とりあえず別の経路の起点まで行って、一台のバスで2台分の働きをしようといういう魂胆。おそらくこのバスはもともとは57A として運行予定だったのだろう。だけど、何らかの理由で57が来ないから指令より「57のターミナルからお客を拾ってそれから57Aとして通常運行せよ」という指令が飛んだと思われる。


昔ならこんな柔軟な対応は出来ないだろうからこの対応は評価できるだろう。だけど、2台いっぺんに来たもう1台がその後どーなったかは不明。こんな芸当が出来るならいつもそうしてくれれば、それはそれで57と57Aが統合されることでバスの頻度が1時間に1本程度から20分に一度程度に増えて便利なのだが。


かくして、こっちは急いでいるのに57A のターミナルに向かったバスはごていねいに57A のターミナルに数分停車。その後住宅地をうろうろしていると、4時発のシャトルバスが私の乗ったダブリンバスを当然のように追い越していった。アディオース、シャトルバース(意味不明)。


そしてバスは数百メートルおきに止まりながらお客を拾い街へ向かうのだが、バンクホリデー前だからか知らんが道は大渋滞。ようやく街中で空港行きの急行バスに乗ったときにはすでに5時になっていた。…あと1時間。ってかさ、あくまで出発時間まであと1時間。たとえばくされRyanairの場合、搭乗手続きが出発の45分前に終了するから空港まで街から少なくとも20分はかかることを計算に入れるとこの時点でアウト。幸い、ルフトハンザで、かつオンライン上で搭乗券を印刷している私はいくらかの余裕があるのだが。 


なんだかんだで空港に着いたのは5時半。これで保安検査場が混んでたら最悪だなあとか思ってたら、時間帯のせいもあってか保安検査場は数分並んだだけで無事通過。そのままゲートに行くと、ちょうど優先搭乗が始まったところ。おおお、まったくをもって時間に無駄がなかったぞ。…逆に言えば何かが起これば万事休すの綱渡りだったわけですが。


定刻の午後6時を待たずして搭乗完了。ちなみに機材はルフトハンザにしては珍しいポンコツ、B737-300 。そこに機長からアナウンス。


機長:「フランクフルト空港の混雑のため、離陸の許可が下りません。40分後の離陸を予定しております」


よくあるんだよね。これ。機内のあちこちから漏れるため息。この便、どうもアジアや中東方面への乗りかえ客が多いらしい(残念ながら、JALやANAの成田行きにはビミョーな差で乗りつげない)。罪作りなことに、乗り換えの接続時間がかなり短めに設定されているのだ。例えば悪名高いロンドンのヒースロー空港。あそこ、悪名高いだけに乗りかえ時間も長めに設定されている。けどフランクフルトは45分とかの短い設定。なので、乗り遅れると真っ青になる人多数。


今回、非常口座席の窓際に座っていた私。どうせ(前後のドアからの降機で中央部に座っている私が)降りるのは最後になるなあとのんびりしてたら、まあ、ほかのお客さんのすばやいこと。文字通り雲の子を散らすようにみんな降りてしまった。気がつくと私は最後の一人として到着口行きのバスに乗り込む。…最後にドア付近に乗ったもんだからちゃっかり一番最初に降りる。そう、下手に慌てても意味がないのだよ。明智君


バスが到着口に着くなり多くの客が一目散に駆けてゆく。なんだか日本の通勤時の地下鉄駅みたいだな。こっちも乗りかえの時間まで30分ほどだが、「乗り遅れたらルフトハンザの金でホテルに泊まれる」くらいにしか思っていない私はのんびりと歩いて入国審査へ。


入国審査官:(日本語で)「コンニチハ」
私:「違う。『コンバンハ』。夜なんだから」


なんだか知らんけどフランクフルト空港の入国審査、人によってまちまちなのだ。私のパスポートを1ページづつ舐めるように見る入国審査官もいれば、表紙だけ見てハンコを押す人もいる。そして、乗換え客用の保安検査場へ。並んでいると同じくダブリンから来た中年女性のドイツ人が「乗り遅れそうなの!先に行っていい?」と聞いてくる。でた、ドイツ名物割り込み…と思いつつも、いいよー、と言ったものの、現在午後9時35分。その人の搭乗時刻も9時35分。心配ないよ。たぶん。


ところが、この人が、いや、ダブリン空港の店の販売員がまたしでかした。このドイツ人女性、ダブリン空港でギネスの500ml缶を4本買ったのはいいが、指定の密閉された袋に入れていないもんだから没収と相成った。もう、これ見るの何度目だろう。あのー、ダブリン空港をご利用の読者様、くれぐれもご注意ください。100mlを超える液体の商品を買って乗りつぎがある場合は専用の密閉袋に入れてもらわないと乗りかえの空港で没収されます。


これね、ひたすらにダブリン空港の販売員の聞き方が悪いのです。


店員:「今日はどこまでですか」
客:「ドイツまで」


…で密閉の袋を使わないと。なので、「乗換えがあります」とはっきり言わないとせっかく買ったものを没収されますよー。ビールくらいなら諦めもつくけど、香水とか高級ウィスキーだったりしたら目も当てられません。


件のドイツ人客も「これダブリン空港の免税店で買ったのにー。キィィ」と数分怒っていたが、乗りかえのヒコーキに間に合わなくなることに気がついたか、結局諦めた。あ、さらに蛇足ですが、こーゆーときは諦めたほうがいいですよ。下手に大騒ぎしたら警官を呼ばれたりしてヒコーキに乗れなくなりますよー。


その後私は個人的に「マラソン通路」と呼んでいる長い地下道を経由してエリアB からAへ移動。乗りかえのヒコーキは定刻どおりに着きましたとさ。