突然のビデオ撮影

会社で忙しく仕事をしてました。すると日ごろあまり言葉を交わさない突然マーケティング部の部員がやってきて…


同僚:「Snigel、 お ね が い があるの」
私:(身構えながら)「何?」


きたよ。どうせパスワード忘れたとか(土日をはさんだくらいで忘れんな)、コンピューターを新しいのに変えてほしいとか(予算ねえよ)、そーゆーどーでもいい、またはどだい無理なお願いに違いない。常日頃私とすれ違っても知らん顔してるくせに、こーゆーときだけ猫なで声でやってきやがって(居丈高)。


が、同僚の次の発言は、私の想像の粋を出たものだった。


同僚:「ビデオに出演してほしい」


なんですと?


私の勤める某社、世界規模で支社だの関連会社だのがあるけっこう大きな会社らしいです。で、私はダブリンのその子会社だか孫会社だか関連会社だか知らんが、ヨーロッパの末端の国でその末端の会社に在籍してるわけ。私としては、自分の勤める会社という木の、自分の部署という「葉っぱ」は見えても、自分の努める会社という木も、グループ企業という森も見えてないので、この会社が世界的にはどんなもんなのかさっぱりわかってません。


ともあれ、その全社の社内ビデオに出てほしいって。意味がわからんて?はい、私にもわかりません。いったい誰が何のために誰のために作るビデオなのかさっぱりわかりません。いずれにしても、そんなビデオになんか出たくない。で、断ったんだけど、この同僚、引き下がってくれない。


私の存在は、この会社内では「見世物パンダ」の向きがあると思う。何せヨーロッパ外からの初採用の人間で、「ほら、弊社はこんなグローバルなエンバイロメントでダイナミックダイクマなビジネスしてます」となぜか意味不明にカタカナ並べて自慢したいのではないかと思われる向きがある。聞けば、私にビデオに出てもらいたい理由もずばりそこにあるらしい。結局私は根負けしてしまい…


私:「どーしてもってんなら出て『あげても』いいけど(居丈高)、撮影はいつなの?」
同僚:「今、すぐ。もう、プロのカメラマン、待機してるから」


…絶句。


ちなみにこの日の私、例の嘔吐下痢症でふらふらになった翌日か何かで未だに体調最悪。なので、髪の毛もいつも以上にだらしなく(何もしてない)、いつもはコンタクトレンズなのにメガネをかけて、よれよれのシャツを着ているような最悪の状況。なのに、目の前には高そーなカメラを持ったカメラマンが来てしまった。


打ち合わせもくそもなく、そのまま撮影に突入…となるはずが、カメラマンからクレームが入る。


カメラマン:「ちょっと、この机は…」


本邦初公開(そして後悔)。Snigelの机。


この机の何が悪いんだよ。おい…って自明の理ですね。よく言えば、いかにもアイチー(IT)の机。フツー、机とその周りに4台もコンピューターなんかないよね(ちなみに一台は自分の仕事用。1台は故障修理中、1台はWindows7をインストールして遊んでて、もう1台は廃棄処分のためデータ消去をしなければいけない)。それはやむないにせよ、机の天板が見えるのが、唯一自分の両肘が置かれる部分だけってのはあんまりだよね。


同僚:「別の机に移動しますか」


と本日休暇中の同僚の机に移動。この時点ですでに捏造入ってます。私の机じゃないところで仕事するなんて。…ともあれ、机の天板の見える同僚の机で撮影をすることに。


私:「で、私はなにをすれば(しているふりをすれば)いいの?」
同僚:「サポセンのスタッフとして、日本語で電話を受けているフリをしてほしい」


おいおいおい、完全にやらせ、捏造じゃねえか。…ってかそれって問題だぞ。


私:「それって問題じゃない?この会社のサポセンは主要ヨーロッパ言語のみでの対応なんだよ。もし、このビデオを見た人が、『あんたんとこは日本語のサポートもやるんでしょ』ってクレームが来たらどーすんの?」
同僚:「…確かに…まずいかも」


…ってかさ、段取り考えて、事前に準備しといてほしかった。そしたらこっちも自分の机を片付けるなり、ダイソーで買った税込み315円のネクタイを避けてジャスコの2000円のネクタイをつけるなりできたはずなのだ。


かくして、他人の机で自分の日常の業務をしているフリを始める。それを肩越しにカメラマンが撮影。で、最後にカメラに向かって日本語で


「私の名前はSnigelです」


と一言言うシーンを撮影して終了。このシーンを撮影したおかげで、どんなビデオかなんとなく想像がついた気がする。


…で、このビデオ、結局何の用途に使われるのか私は結局わからずじまい。たぶん、私には今後何の連絡も来ないであろうと思われる。願わくは、私が撮られた部分はきれいにカットされていればいいのですが。